1月20日、新国立劇場オペラ部門の2026/27シーズン・ラインナップが発表された。大野和士芸術監督はブリュッセルからオンラインでの参加となった。
新シーズンは新制作3演目を含めた10演目が上演される。大野が指揮台に立つのは、先行発表されていた、ベンジャミン・ブリテン《ピーター・グライムズ》(新制作)と《カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師》(2014年に新制作上演されたプロダクションの再演)の2演目。
会見ではそれぞれの演目について大野がその想いや配役について語った。

提供:新国立劇場
【新制作】
●ロッシーニ《イタリアのトルコ人》
(2026年10月、指揮:アレッサンドロ・ボナート、演出・衣裳:ロラン・ペリー
●ベンジャミン・ブリテン《ピーター・グライムズ》
(2026年11月・12月、指揮:大野和士、演出:ロバート・カーセン)
●ヴェルディ《マクベス》
(2027年6月・7月、指揮:カルロ・リッツィ、演出:ロレンツォ・マリアーニ)
【レパートリー】
●モーツァルト《フィガロの結婚》
(2026年12月、指揮:阪哲朗、演出:アンドレアス・ホモキ)
●プッチーニ《トスカ》
(2027年1月・2月、指揮:ドナート・レンツェッティ、演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ)
●R.シュトラウス《サロメ》
(2027年2月、指揮:沼尻竜典、演出:アウグスト・エファーディング)
●ピエトロ・マスカーニ/ルッジェーロ・レオンカヴァッロ《カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師》
(2027年3月、指揮:大野和士、演出:ジルベール・デフロ)
●R.シュトラウス《ばらの騎士》
(2027年4月、指揮:パトリック・ハーン、演出:ジョナサン・ミラー)
●ヴェルディ《ファルスタッフ》
(2027年4月、指揮:マウリツィオ・ベニーニ、演出:ジョナサン・ミラー)
●チャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》
(2027年5月、指揮:アンドリー・ユルケヴィチ、演出:ドミトリー・ベルトマン)
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●新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室 2026
ドニゼッティ《愛の妙薬》(2026年7月 新国立劇場 オペラパレス)
●新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室2026
プッチーニ《蝶々夫人》(2026年10月 ロームシアター京都 メインホール)
●新国立劇場 地域招聘オペラ公演2026 びわ湖ホール
林光《森は生きている》(2026年7月 新国立劇場 中劇場)
イタリア・オペラを開幕と最後に配したのは、シーズンを「幕」として考えてのこと。特に、ロッシーニ作品の上演2作目にして劇場初登場となる《イタリアのトルコ人》をこのタイミングで取り上げるのは、ロラン・ペリーによる演出が大きな決め手になったいう。
2023年マドリードで初演された本プロダクションは、イタリア発祥の「フォトノベル」(写真や吹き出しの入ったメロドラマ風のロマンス小説)の手法がとられている。
「もともとこの作品は二重唱、三重唱、四重唱と場面が変わっていき、エンディングへと繋がっていく構造がとてもユニーク。それぞれの動きを大きなパネルで表示したり、舞台セットや映像も含めての見せ方など、ペリー氏がこのオペラに非常に“劇生”をもたらしている」

テアトロ・レアル2023年公演より © Javier del Real | Teatro Real
物語は、トルコの王子セリムがイタリアを訪れて巻き起こす恋愛ドタバタ劇。愛を楽しむセリム役には、メトロポリタン歌劇場、英国ロイヤルオペラのデビューを控えるジョルジ・マノシュヴィリが初登場。夫がいながらもセリムに惹かれるドンナ・フィオリッラ役には、2024/25シーズン《夢遊病の女》アミーナで急遽出演となったクラウディア・ムスキオが再登場する。ブルーノ・タッディアが演じる詩人プロスドーチモは狂言回しのごとく、一歩枠の外から彼らの様子を映して出しているような演出になっているという。指揮は初登場となるイタリアの俊英アレッサンドロ・ボナート。
そして、シーズン最後を飾る《マクベス》。「シェイクスピアの原作通り、大変画期的なドラマ。ヴェルディの比較的初期、ある意味作曲家としてのスタートを飾った名作といえる。全4幕の筋書きが見事」と大野は作品の魅力を語る。指揮はこれまでにも同劇場でヴェルディ作品を振ってきた、「オペラの真髄を披露してくれる」カルロ・リッツィ。マクベスにはヴェルディのスペシャリスト、エルネスト・ペッティ。こちらも重要な役どころであるマクベス夫人には「歌の中に心が深くこもる声」というカレン・ガルデアサバル、ともに劇場初登場だ。

ミラノ・スカラ座公演より Photo: Brescia and Amisano © Teatro alla Scala
そして3つめの新制作、ブリテンの《ピーター・グライムズ》は、現代の巨匠ロバート・カーセン演出によって2023年にミラノ・スカラ座で初演、大きな話題を呼んだプロダクション。「現代作曲家の作品上演に力を入れていきたい中で、重要な作曲家のひとり」と語るブリテンの代表作を、自らの指揮で披露する。タイトルロールは、スカラ座公演でもこの役を歌った世界的テノール、ブランドン・ジョヴァノヴィッチが配された。
「うらぶれた漁村でグライムズが、社会・集合の中に馴染めず、疎外されていくなか、海を見ながらその日その日をしっかり生きようとしている一人の人間の総体を、このオペラを通してみていただける意欲あふれる作品。ブリテンの音楽を通じて、人間性とは何かを問いなおす機会になれば」と思いを語った。

レパートリーものは、とりわけ新国立劇場の人気作が並ぶ。特筆すべきは《フィガロの結婚》。指揮の阪哲朗をはじめ、キャスト陣もすべて日本人のみで構成されている。フィガロ役には、同劇場初登場となる木村善明。
「一つひとつの役を誰にお願いするかを考えていた際、最終的にフィガロに木村さんが入った時点で、自然の流れですべて日本人キャスト、という結論がでました。個性的で身体的にさまざまに表現をしていただける方々が揃っています」

撮影:三枝近志

撮影:堀田力丸
続いて《トスカ》と《サロメ》は、新国の四面舞台を活用して日替わりで上演されるスケジュール。
1月下旬からの《トスカ》では、この作品を得意とするドナート・レンツェッティが指揮。トスカ役には、多くの映画監督から指名されて女優としての一面も持つ、カルメン・ジャンナッタージョが初登場。2月上旬に上演される《サロメ》は、沼尻竜典が指揮台に立つ。
音楽監督を務める神奈川フィルの公演などでも《サロメ》を指揮しており、「この作品に長けている方。彼にこの《サロメ》をお任せしたいと伝えた」という。サロメ役には、今シーズン目玉の新制作《エレクトラ》クリソテミスで同劇場デビューを果たすヘドヴィク・ハウゲルド。2023年にタイトルロールを歌ったアレクサンドリーナ・ペンダチャンスカがヘロディアス役を歌う。

撮影:三枝近志

撮影:寺司正彦
《ばらの騎士》では、オクタヴィアン役に日本が誇るメゾソプラノ・脇園彩が楽しみだ。「イタリア、フランス、ドイツなど世界を股にかけている脇園さんでやっとこの役を、その声を楽しんでいっていただける機会が訪れます」と大野。《ファルスタッフ》では、1998年の初登場から四半世紀以上、同劇場に出演し続けているロベルト・フロンターリがタイトルロールを歌うのも注目だ。《エフゲニー・オネーギン》では、タチヤーナ役に「まばゆいまでの表情、舞台姿が期待される」クリスティーナ・ムヒタリアン、オネーギン役はウィーン、英国ロイヤルなどで活躍するアンドレイ・ジリホフスキーが登場する。

撮影:堀田力丸

撮影:堀田力丸
そして大野自身が指揮台に立ち、13年ぶりに再演される《カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師》は、初登場となるサントゥッツァ役のキアラ・モジーニ以外は、ルチアーノ・ガンチ(カヴァレリア・ルスティカーナ/トゥリッドゥ)、ロベルト・アロニカ(道化師/カニオ)、中村恵理(道化師/ネッダ)、マッシモ・カヴァレッティ(化師/トニオ)などお馴染みの歌手陣が並んだ。

撮影:堀田力丸

撮影:堀田力丸
なお会見では、新シーズンのオペラおよびバレエ公演、全ジャンルのZ席について、チケット料金の改定も明らかにされた。2023年秋に価格改定されていたが、その後の諸物価の高騰により自助努力のみで現行価格を維持することが困難となり、「芸術的な質の確保、そして公演を継続していくための基盤を守るため」の判断だという。チケットの料金帯ごとに値上げ幅は異なるが、オペラ公演に関しては各席プラス2,000円前後となる見込みだ。
最後に質疑応答では、念願だった細川俊夫作品、《ナターシャ》世界初演など今シーズンを振り返っての想いを尋ねられた大野。昨年11月に上演された《ヴォツェック》のタイトルロール、トーマス・ヨハネス・マイヤーの急逝についても言葉を詰まらせながら思いを述べた。
「前シーズンの《ウィリアム・テル》を上演できたことがまず喜びです。《ナターシャ》では世界に類をみない新作を日本から発信することができた。今までのプログラムに大きなプラスになり、劇場の歴史に残る作品になったのではないかと振り返ります。
稽古の時から私たちを励まし、ゲネプロと最初の2公演、みんなを引っ張ってくれたのが、他でもないマイヤーさんでした。調子が良くなれば戻ってきて演奏したいと仰っていて、私たちもそれを願っていました。その間、駒田敏章さんが彼とは違うエネルギーとご自身の実力で素晴らしい公演してくださった。私たちの中に空いたどうしようもない空間。彼が歌っていたあの声、練習をしながら語っていたことは、私たちの心の中にこれからもずっと、永遠に残るのではないかと思っています」
取材・文:編集部
新国立劇場
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オペラ 2026/2027シーズンラインナップ
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