スイスで研鑽を積み、今や大家となった堀由紀子。自宅の土壁部屋で録音したベートーヴェン中期の三大ソナタ。どの曲も的確な構造把握による解釈で、ベートーヴェンらしい重厚な響きは説得力がある。「ヴァルトシュタイン」の機動性は素晴らしい。前進駆動の中に天の声のような第2主題が挟まり、大きく高揚してゆく。鮮やかな力感の蓄積。これぞ精神の羽ばたきである。「熱情」も両端楽章で凄まじい昂揚を聴かせる。その集中と爆発は息詰まるほど。「テンペスト」の前進と停滞のせめぎ合いから、作曲家に対する奏者の張り詰めた想いが、ひしひしと伝わってくる。ベートーヴェンの名盤だ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2026年2月号より)
【information】
CD『私の部屋のベートーヴェン/堀由紀子』
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」、同第21番「ヴァルトシュタイン」、同第23番「熱情」
堀由紀子(ピアノ)
コジマ録音
ALM-7319 ¥3300(税込)



