欧州に拠点を移したクァルテット・インテグラが贈る、時代をつなぐウィーンの響き

左より:三澤響果、菊野凜太郎、パク・イェウン、山本一輝 ©Abby Mahler

 人は変わっていくし、人間同志の関係性も変わっていく。変化というものを養分としながら、変わらないのは自らの探求と対話を突き詰める意志である。クァルテット・インテグラの4人の場合、それはアンサンブルと作品世界をいかに精緻に結実させていくか、ということになるだろう。

 結成から10年目の秋、クァルテット・インテグラはレジデンス・アーティストも務めてきたロサンジェルスのコルバーン・スクールから、ハノーファー音楽演劇大学に学びの場を移し、フランスにある室内楽センターProQuartetのアーティスト・イン・レジデンスも務める。昨春に年下の学友パク・イェウンを新たなチェリストに迎え、インテグラ(統合)の新たなかたちを模索している時節でもある。

 いよいよヨーロッパの季節が大きく彼らに訪れることになるのだろうが、ちょうどそうした折、王子ホールのシリーズで昨秋に続き、シューベルトとウェーベルンを組み合わせて聴かせる。

 バルトークをはじめ近現代作に殊に卓抜な統制を利かせる彼らが、シューベルト晩年の最後の四重奏曲ト長調 D887をしめくくりに据え、その12年半ほど前に作曲された変ホ長調 D87との間に、世紀をまたいでウェーベルンの無調時代の切り詰められた傑作「6つのバガテル」op.9をはさむ。おそらく彼らは、ウェーベルンの未来から鋭敏に照射するように、シューベルトの時期の異なる両作をみつめ直すのではないか。

 新しい冒険へと乗り出した若者たちの、開かれた変化を見越した挑戦を、いよいよ楽しみにしたい。

文:青澤隆明

(ぶらあぼ2025年11月号より)

クァルテット・インテグラ Vol.2 ~シューベルトとウェーベルン II~
2025.12/3(水)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990 
https://www.ojihall.jp


青澤隆明 Takaakira Aosawa

書いているのは音楽をめぐること。考えることはいろいろ。東京生まれ、鎌倉に育つ。東京外国語大学英米語学科卒。音楽評論家。主な著書に『現代のピアニスト30—アリアと変奏』(ちくま新書)、ヴァレリー・アファナシエフとの『ピアニストは語る』(講談社現代新書)、『ピアニストを生きる-清水和音の思想』(音楽之友社)。そろそろ次の本、仕上げます。ぶらあぼONLINEで「Aからの眺望」連載中。好きな番組はInside Anfield。
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