【CD】R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」/沖澤のどか&京響

 常任指揮者となって2年半、沖澤のどかと京都市交響楽団による初ディスクである。冒頭から低弦が突き上げるように唸り、響きの充実がコンビの充実を即、物語る。注目すべきは曲が重厚さに引きずられないこと。各パートが何をすべきかの意志と方向性が明確で、この壮大な交響詩を運ぶ歩みが滞らず、細部と俯瞰のバランスが良い。身振りの大きな楽曲の向こう側に仕込まれた、音の自画像を描くシュトラウスのユーモアや諧謔、喜怒哀楽がくっきり浮かび上がってくる。この素晴らしく精彩あふれる演奏を聴いたら、当コンビの今後にも期待が高まるほかない。「英雄」の旅路はまだ始まったばかり。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年10月号より)

【information】
CD『R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」/沖澤のどか&京響』

R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

沖澤のどか(指揮)
京都市交響楽団
会田莉凡(ヴァイオリン)

日本コロムビア
COCQ-85636 ¥3500(税込)


矢澤孝樹 Takaki Yazawa

1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。