名匠とともにロマン派の音楽の森に分け入ろう
東京文化会館が贈る《響の森》シリーズ。36回目となる6月の公演は「ドイツ・ロマンの森」と題したプログラムのもと、ドイツ音楽のスペシャリスト、重鎮・飯守泰次郎が東京都交響楽団を指揮する。
飯守は若いころドイツの歌劇場を渡り歩いて本場の音楽を身につけ、70年代にはバイロイト音楽祭の音楽助手まで務めた指揮者。その仕事ぶりはワーグナーの孫ヴォルフガングからも高い評価を受けた。1990年代以降は国内のオーケストラを骨太に鳴らし、本家本流お墨付きのスタイルを日本という地で草の根から育んできた。現在は新国立劇場オペラ部門芸術監督の任にあり、まさに叩き上げで登りつめた職人肌のアーティストだ。
今回のプログラムは、そんな飯守の十八番ともいうべきワーグナーの歌劇《タンホイザー》序曲に始まる。巡礼僧たちの旋律に導かれて深々としたドイツの森に足を踏み入れた私たちを待っているのは、媚薬による男女の濃密な愛の物語だ(楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」)。寄せては返す息の長いエクスタシーの波と、その先に訪れる悲劇を、飯守のタクトが都響の重厚なサウンドで描き出す。
後半はドイツ・ロマン派のもう一人の巨匠ブラームスの交響曲第4番。耽美のワーグナーに対してブラームスは古典的な均整美を重んじ、4つの傑作シンフォニーを放って、交響曲が低迷した時代にそのスタイルを復興した。第4番は憂いを帯びたしっとりとした気分が支配的だが、シャコンヌによるがっちりとした第4楽章にはブラームスらしい気概も読みとれる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年3月号から)
6/3(水)19:00 東京文化会館
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
http://www.t-bunka.jp