「インヴェンションとシンフォニア」を「響きあう創意」と意訳したくなる、そんな一枚だ。エスファハニは前者をクラヴィコード、後者をチェンバロで弾き、かつフィル・アップの小さな前奏曲たち(断片や「運指練習曲」も含む)では両者を楽曲の性格に応じ使い分ける。クラヴィコード演奏に顕著な呼吸感溢れる自在なフレージング、一転チェンバロ演奏の構築的な響き。小さな作品たちがそれぞれ備えている驚くべき小宇宙が、眼前に広がる。これらの楽曲は本当に「教材」なのだろうか? 然り、創意とはこういうもの、と示すという点において、最高の教材なのだ。それを納得させてくれる演奏。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2024年11月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:前奏曲、インヴェンション、シンフォニア/マハン・エスファハニ』
J.S.バッハ:7つの小前奏曲、前奏曲(断片) BWV932、インヴェンションとシンフォニア(2声のインヴェンション 3声のシンフォニア)、アップリカティオ BWV994、フーガ BWV953、イエスはわが喜び(断片) BWV753 他
マハン・エスファハニ(チェンバロ/クラヴィコード)
Hyperion/東京エムプラス
JCDA 68448 ¥3500(税込)