鈴木敬介氏逝く

 日本を代表するオペラ演出家として活躍した鈴木敬介氏が、8月22日、肝硬変のため死去した。77歳だった。東京出身の鈴木氏は、慶應大学在学中から演出や振付、舞台監督の経験を積み、1963年に日生劇場に入社した。同年に同劇場のこけら落しとして上演されたベルリン・ドイツ・オペラ公演(カール・ベーム、ロリン・マゼール、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウらが来日)の舞台監督を務めたことはよく知られている。その後、66年に《ポッペアの戴冠》日本初演を行い、日生劇場のオペラ演出家として本格的なデビューを果たした。69年よりベルリン・ドイツ・オペラ演出部に所属し、同歌劇場の演出家であったグスタフ・ルドルフ・ゼルナー総監督や、オスカー・フリッツ・シュウの薫陶を受けた。帰国後は日生劇場の企画制作を担当し、古典から現代まで多くのオペラを演出しているが、中でも72年の二期会創立20周年記念公演《ワルキューレ》(指揮:飯守泰次郎)や79年の《魔笛》(指揮:ウォルフガング・サヴァリッシュ)などは名舞台として絶賛された。日生劇場では95年から97年まで芸術監督の任に就いていたが、以降はフリーとして演出活動を行い、99年から2006年まではびわ湖ホールにおいて、若杉弘が指揮したヴェルディの日本初演作品の演出を手がけ高い評価を得た。その後もオペラ演出を行っているが、近年では08年の《マクロプロス家の事》(東京二期会)が大きな話題を呼んだ。邦人オペラの演出にも優れた手腕を発揮し、團伊玖磨《夕鶴》や松村禎三《沈黙》初演における成果は日本のオペラ史における重要な1ページとなっている。
 1974年に《オルフェオとエウリディーチェ》で第16回毎日芸術賞、「モーツァルト4大オペラ」(83年)により第15回サントリー音楽賞、モーツァルト没後200年記念「モーツァルト6大オペラ」(91年)でジロー・オペラ賞、2001年《パルジファル》で第51回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。
 なお、この11月12、13日に日生劇場で上演される《夕鶴》(指揮:下野竜也)は鈴木敬介氏の追悼公演として、氏の元で学び、一昨年の「しんゆり芸術祭」のオペラ《夕鶴》でも演出補を務めた飯塚励生(いいづか れお)が鈴木版を踏襲したかたちで演出を行うことが決まっている。

問:日生劇場03-3503-3111 HP