前田のピアノ曲創作の姿勢はシンプルである。この楽器の打鍵した瞬間から音が減衰する特性に美を見出すこと。そしてその方法もストイックなまでにシンプルだ。音が次第に弱くなっていくこと、低い音から高い音に移っていくこと、それらは遠ざかり、あるいは重力から解放されて天へと昇っていくイメージを与える。前田は調律やペダル操作によってそのプロセスを徹底的に研ぎ澄まさせる。和音がからっと鳴り、他の弦を共鳴させながら消えていくと、そこに音が満たしていた場が澄み切った「空」として出現するのだ。「イン・ビトゥイーン」とはそうした「空」の美学を指しているに違いない。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年4月号より)
【information】
CD『イン・ビトゥイーン 前田克治 ピアノ作品集 /前田克治』
前田克治:イン・ビトゥイーン、影と形、三和音、とぎれない夢(影と形II)、曙光
前田克治(ピアノ)
コジマ録音
ALCD-139 ¥3300(税込)