時空を超えた“死と再生”の物語
神奈川県民ホール開館40周年記念作品として一柳慧のオペラ《水炎伝説》が上演される。2005年作曲の混声合唱とピアノのための同名作品(委嘱初演:東京混声合唱団)の改訂初演版だ。もともと舞台用に構想され、合唱だけでなく、独唱者や、ときに語り手も多用されるオペラ仕立てだった作品が、作曲者自身の管弦楽編曲により新たな装いをまとって生まれ変わる。
大岡信によるテキストは、古代の菟原処女(うないおとめ)伝説を素材とした1989年の戯曲。美女アカトキを争う二人の男。彼らはそれぞれ昼と夜の世界の住人で、昼と夜が交替する暁の化身であるアカトキは一方に属することができない。二人は誤って彼女を弓で射殺してしまう。死後の世界の支配者はアカトキの姉トコヨ。美しいけれど生という限られた時間の中でしか存在できない妹と、永遠の命を与えられた、しかし闇の世界だけに生きる醜い姿の姉。“美と永遠”が、死と再生の主題の中で象徴的に浮き彫りにされてゆく。
出演は、アカトキに天羽明惠(ソプラノ)、二人の男に高橋淳(テノール)と松平敬(バリトン)。アカトキの母とトコヨの2役を加賀ひとみ(メゾソプラノ)が演じる。演出(美術・振付も担当)はこれがオペラ初演出の舞踊家・中村恩恵。3人のダンサーが出演するが、歌手陣の動きは、逆にかなり抑制されたものに限定されるとのこと。静と動という演出上の新たな対比が、物語自体を構成する複層の対照を、さらに多軸化する効果となるのだろう。上演時間40分ほどの短編オペラ。目と耳と脳を研ぎすませて臨め!
文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)
2015.1/17(土)、1/18(日) 各15:00 神奈川県民ホール(小)
問:チケットかながわ 0570-015-415
http://www.kanagawa-arts.or.jp