中井恒仁 & 武田美和子(ピアノデュオ)

深化を続ける二人がひろげるアニバーサリー作曲家の豊穣の響き

左:中井恒仁 右:武田美和子 (c)Toshiaki Yamada

 ソリストとしてもデュオとしても、国際的な活躍を見せる中井恒仁&武田美和子。二人が2015年にスタートしたデュオリサイタル「ピアノの芸術」は今年で7回目を迎える。名曲から知られざる傑作まで、毎回多彩なプログラムを組み、デュオのレパートリーを拡張し続けている。

 今回は前半で生誕150年のラフマニノフ作品に焦点を当てる。作曲者自身の編曲による前奏曲「鐘」2台ピアノバージョンで幕を開ける。

中井「2台版は音数が増え、ロシアの教会の鐘の音がまさに倍増するかのような響きが得られます。独奏版とは一味違った、より大きな空間が浮かび上がります」

 そもそもラフマニノフは、二人にとってはデュオ結成時からの重要な位置付けにあった。

中井「ラフマニノフの作品にはそれぞれのパートに見せ場がありながら、ともにハーモニーを作ったり、掛け合いがあったりと、デュオの魅力が詰まっています」

武田「特に『組曲』第2番は私たちの出発点とも言える作品で、大切に弾き続けてきました。今回は、演奏される機会が少ない第1番を取り上げます。ゆったりとした〈舟歌〉や、しとしと流れる〈涙〉は内省的で静かな曲想ですが、中間部に見せる力強い表情や最終曲〈復活祭〉の鐘の表現には、若き日のラフマニノフの爆発的なエネルギーも感じられます」

中井「彼の協奏曲第2番や第3番がもつ華やかなロマンティシズムとは異なり、ロシア音楽の宗教的側面や、ある種の“暗さ”を湛えた伝統的な表情を見せる作品ですね。2台ピアノで繊細かつダイナミックに組み上げていきたいと思います」

 後半は、同じく生誕150年のレーガーから発想を広げた。

武田「ワーグナー(レーガー編)の『イゾルデの愛の死』を弾こうと決め、そこからオペラをテーマに選曲することになりました。ピアノは出した音がその瞬間から減衰するので、歌を表現するのは難しいことですが、まるで音が持続したり膨らんだりしているかのような響きを目指したいと思います。後半の最初は、シューベルトの爽やかな連弾曲です。当時人気だったオペラ《マリー》による変奏曲で、とても愛らしく美しい作品です」

中井「『イゾルデ』を挟み、最後はビゼー(シム編)の組曲『カルメン』です。カルメンの名場面の音楽を、ピアノならではの音色で彩った、楽しく華やかなアレンジで締めくくります」

 デュオとしての活動を継続し、蓄積があるからこそ、互いに本番での「自由」や「即興性」を活かし合えるという。大人のデュオが聴かせる深み、渋み、色気、繊細さ、そして迫力を存分に味わいたい。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2023年11月号より)

中井恒仁 & 武田美和子 ピアノデュオリサイタル ピアノの芸術Vol.7
2023.11/24(金)19:00 東京文化会館(小)
問:プロアルテムジケ03-3943-6677 
https://www.proarte.jp