アルゲリッチとチョン・キョンファ、夢の初共演が実現する第23回別府アルゲリッチ音楽祭

伊藤京子

 今年4月26日から7月17日まで約2ヵ月半にわたって、ピアニストのマルタ・アルゲリッチが総監督を務める「別府アルゲリッチ音楽祭」が大分県の別府・大分両市で開催される。2月8日、オンライン記者発表が行われ、ピアニストで同音楽祭総合プロデューサーの伊藤京子らが出席した。

 別府アルゲリッチ音楽祭は、「育む」「アジア」「創造と発信」という3つの柱をもとに1998年に始まった。2023年のテーマは、「ミーティング ポイント 〜違いを超えて Meeting Point – Beyond boundaries」。コロナ禍、自然破壊による環境問題、ロシアによるウクライナ侵攻……深刻な状況が続く社会における音楽祭が果たす役割について、アルゲリッチは「私たちは無力ではありますが、諦めることなく、人と人が出会うことの意味や、それぞれの違いを寛容に受けとめ乗り越えることができるのか、そこに音楽の果たす役割はあるのか、みなさまと考えてみたいと思っています」というメッセージを寄せている。

マルタ・アルゲリッチ

 伊藤は、今回のテーマについて次のように述べた。
「この音楽祭を立ち上げるとき、アルゲリッチと共に考えた音楽祭の正式名称『Argerich’s Meeting Point in Beppu』には、“人と人が出会うことの大切さ”が込められています。アルゲリッチに出会ったことで、この大分の地で音楽祭を立ち上げることに結びつき、その後、本当に多くの方々との素晴らしいご縁をいただき、長きにわたり続けることができました。全世界が混乱の中にある今、出会いの大切さを思いおこそう、原点に立ち戻ろうという想いを込めています」

 23回目を迎える今年は別府・大分での全8公演に加え、県外では東京で1公演、茨城で関連コンサート2公演、2月および3月に大分県内での拠点コンサート2公演というラインナップ。
 特に注目となるのは音楽祭初登場のチョン・キョンファが、アルゲリッチとの初共演でフランクのヴァイオリン・ソナタ イ長調を披露する「ベスト・オブ・ベストシリーズ Vol.8 室内楽コンサート」(5/23)。二人の共演は2020年に予定されていたがコロナの影響で延期となり、今回ついにレジェンド同士が同じステージに立つ。音楽祭アドバイザリー・コミッティを務めるミッシャ・マイスキーは、同じ公演でアルゲリッチとショパンのチェロ・ソナタ ト短調を聴かせるほか、「マイスキーからの贈り物 ミッシャ・マイスキー&スペシャル・カルテット」(5/22)含む3公演に出演。

チョン・キョンファ ©︎Simon Fowler
ミッシャ・マイスキー ©︎Hideki Shiozawa

 オープニングを飾るのは、ジュネーヴ国際コンクール・チェロ部門で日本人初の優勝を果たした上野通明のチェロ・リサイタル(4/26)。上野がメンバーであるエール弦楽四重奏団がマイスキーと共演する大分での「室内楽コンサート」(5/21)は、休館中のiichiko総合文化センター iichikoグランシアタに替わりJ:COM ホルトホール大分で行われる。そのほか、5月に東京オペラシティおよび水戸芸術館の2会場3公演で水戸室内管弦楽団を振るディエゴ・マテウス、サクソフォンの上野耕平のリサイタル(7/17)など、初登場の豪華アーティスト公演も話題となりそうだ。

上野通明
ディエゴ・マテウス
上野耕平

 さらに教育プログラムとして、大分の若い演奏家を育み地域に根ざした音楽祭になることを目的とした「大分県出身若手音楽家コンサート」、「世界へ羽ばたく音楽家たち」シリーズのほか、ヴァイオリンのウィリアム・チキートが講師を務めるマスタークラス(非公開)も前回から引き続いて実施となる。

 昨年から心臓疾患の疑いのため公演キャンセルが続いていたアルゲリッチ。会見のはじめに、伊藤は「無事に治療も終えて体調も回復し活動を再開している。今日の会見は公演が重なったため欠席となったが、今年の音楽祭を心待ちにしている」と現在のアルゲリッチの体調について報告。健康面を最優先し全体のスケジュールに配慮するという。
 2021年、大分県によって制定された6月5日の「マルタ・アルゲリッチの日」。音楽祭期間中である当日は関連企画も検討中とのこと、音楽祭がいっそう盛り上がる一日となるだろう。

別府アルゲリッチ音楽祭
2023.4/26(水)〜7/17(月)

[別府]しいきアルゲリッチハウス、ビーコンプラザ
[大分]J:COM ホルトホール大分、平和市民公園能楽堂
3/4(土)発売

問:アルゲリッチ芸術文化振興財団0977-27-2299
https://www.argerich-mf.jp