どこまでも真摯で清純。新進ヴァイオリニスト伊藤万桜のデビュー・アルバムは、「流れるような、しなやかな」を意味するアルバム名と、あふれる“桜”色のジャケットのイメージ通り。派手さに走らず、自然な美しさを追求した演奏で、ロマンティックな4曲に付いた手垢を洗い流す。R.シュトラウスは曲が進むにつれて感興が乗っていき、第2楽章の清廉なリリシズムは心に残る。グリーグ冒頭のG線の旋律も粗野にならず、丁寧な左手のポジション移動で細かい音をおろそかにしないなど、目配りを利かせて作品を見直し、本来の姿に迫っていく。筋の通った俊英の登場だ。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年1月号より)
【information】
SACD『フレッシービレ/伊藤万桜』
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調/グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番/ラフマニノフ:ヴォカリーズ/マスネ:タイスの瞑想曲
伊藤万桜(ヴァイオリン)
山㟢早登美(ピアノ)
アールアンフィニ
MECO-1066 ¥3300(税込)