第28回 パシフィック・ミュージック・フェスティバル

世界中から集まった若手演奏家と名手が生み出す感動

 世界的指揮者であるワレリー・ゲルギエフ(芸術監督)、準・メルクルなどがタクトをとる2017年のPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)。今年も7月〜8月にかけ、札幌を中心に様々なコンサートやマスタークラスなどが開催される。
 音楽祭の主役ともいえるPMFオーケストラは、世界から集まった若い演奏家たち、つまりPMFアカデミーの生徒たちと、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、メトロポリタン歌劇場管などアメリカの一流団体で活躍する名手たちによる、いわば合同オーケストラであり、この期間、この音楽祭でしか聴くことの出来ない貴重なオーケストラである。

PMFオーケストラは3プログラムを披露

 これまで何度も感動的な演奏を繰り広げてくれたPMFオーケストラ。今年は主に3つのプログラムを演奏する。まず準・メルクル指揮の<プログラムA>では、日本を代表する作曲家、細川俊夫の「夢を織る」、ラヴェルの壮大なバレエ曲「ダフニスとクロエ」が演奏される(7/15,7/16)。<プログラムB>はやはり準・メルクルの指揮で、リスト、ドビュッシー、R.シュトラウスの管弦楽曲を前半に、後半はバルトークの傑作でオーケストラ音楽ファンなら必聴の「管弦楽のための協奏曲」が演奏される(7/22,7/23)。若い演奏家にとっては至難の楽曲だが、そこをサポートする世界的な名手たちの演奏も楽しみである。
 ゲルギエフは<プログラムC>を指揮する(札幌・7/29,7/30、川崎・7/31、東京・8/1)が、ワーグナーの《タンホイザー》序曲(ドレスデン版)、ブルッフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」、そしてシューベルトの大作「交響曲第8番『ザ・グレイト』」というプログラミング。今年はある意味、ドイツ・オーストリア音楽主流派の多彩な表情を描き分けるという感じになるだろうか。注目したいのはブルッフの協奏曲を演奏するダニエル・ロザコヴィッチ(2001年ストックホルム生まれ)。まさに時代は変わる。“21世紀世代”の登場である。彼はヴァイオリンを習い始めてからわずか2年で、スピヴァコフ指揮のモスクワ・ヴィルトゥオーゾ室内管弦楽団と共演して、協奏曲デビューを果たしたというから、驚くべき早熟な才能である。その後も順調にキャリアを重ねており、このPMFオーケストラとの共演が日本デビューとなる。そこに、かつての五嶋龍の姿を重ねるファンも多いかもしれない。

魅力的な演奏会場の数々

 さて、札幌で行われるPMFの大きな魅力とは、(札幌の美味しい食べ物はもちろんだが)演奏会場の素晴らしさだ。中島公園にある札幌コンサートホールKitaraの音響の良さ、そして郊外にある札幌芸術の森の野外ステージは、まさに夏の音楽祭を開催するにふさわしい開放感に満ちている。そこでのクラシック音楽体験は、普段とはひと味違う印象となるだろう。芸術の森・野外ステージでは、オープニング・コンサート(7/8)、ピクニックコンサート(7/30)が開催されるから、ぜひ足を伸ばしていただきたい。
 さらに教授陣の室内楽、「準・メルクルとの対話」と題された教育セミナー(7/23)や、もちろん様々なマスタークラスも開催される。全国から駆けつけるファンも多いだろう。今年も札幌は音楽の夏を迎える。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ 2017年7月号から)

7/8(土)〜8/1(火) 札幌、函館、苫小牧、帯広、奈井江、川崎、東京 ほか
問:パシフィック・ミュージック・フェスティバル組織委員会011-242-2211
http://www.pmf.or.jp/