“女王”と“新鋭”の熱き共演
ヴィクトリア・ムローヴァを“ヴァイオリンの女王”と呼ぶことに、いまや異を唱える人はいないだろう。何といっても舞台での存在感が違う。その音楽は芯に厳しさを具えながらも温かく、強い。そしてムローヴァ自身の生き方とまっすぐにつながっている。
ソヴィエト・モスクワ音楽院でコーガンに学び、チャイコフスキー国際コンクールで優勝するも、1983年に西側に亡命。90年代になると古楽にも本格的に乗り出し、自らアンサンブルを組織するだけでなく、ジャズやポピュラーにも目を向けた。プライベートでも自由な生き方を貫き、常にチャレンジしながらおのれの芸術を年輪のように広げてきた。
そのムローヴァが5月に読響と共にシベリウスのヴァイオリン協奏曲を弾く。彼女にとってこの曲は、80年のシベリウス国際コンクールに優勝した頃から何度となく弾いてきた、最も大切なレパートリーの一つ。大きく年輪を広げたいまだからこその味わいを楽しみたい。共演相手がほかならぬ読響というのも期待できる。
この日タクトを取るキリル・カラビッツは、ウクライナで活躍した作曲家を父に持つサラブレッドで、現在ボーンマス交響楽団の首席、秋からはドイツ・ワイマール国民劇場音楽総監督にも就任する。あまたの才能ひしめく若手指揮者界でも、着実にキャリアを築きつつある一人。最近完結したボーンマス響とのプロコフィエフ交響曲全集は高い評価を得たが、プロコフィエフの生地ドネツクもまたウクライナ。カラビッツにとってこの作曲家は偉大なる先達なのだ。今回演奏される「ロミオとジュリエット」にも、同国人の熱き血潮が流れることだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年5月号から)
第187回 土曜マチネーシリーズ 5/28(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
第187回 日曜マチネーシリーズ 5/29(日)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
第592回 名曲シリーズ 5/31(火)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
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