ブクステフーデをJ.S.バッハの先駆者としてのみ評価することはもうやめよう——椎名雄一郎は本盤の解説でそう伝えている。いや何よりも、内容と演奏からそれが雄弁に伝わる。2枚組、かつそれぞれの盤でハンブルク聖ヤコビ教会、ノルデン聖ルートゲリ教会の歴史的シュニットガー・オルガンを使用。北ドイツ・オルガン楽派を熟知し数多の名演を聴かせてきた椎名が、有名曲ばかりを選ばず、前奏曲と各種コラール楽曲でこの巨匠オルガニストの真髄に迫る。豪壮さと幻想性、それを支える構築力をバランスよく表出し、2台のオルガンの音色の違いも楽しめる。ブクステフーデここにあり、の2枚組だ。
文：矢澤孝樹
（ぶらあぼ2026年1月号より）
【information】
CD『ブクステフーデ オルガン作品集／椎名雄一郎』
ブクステフーデ：前奏曲 ニ調、同ト調、われら神であるあなたを讃えん、カンツォーナ ハ調、今ぞ喜べ 愛するキリストのともがらよ、天にましますわれらの父よ、第9旋法によるマニフィカト、われ汝に呼ばわる 主イエス・キリストよ 他
椎名雄一郎（オルガン）
コジマ録音
ALM-1229,1230（2枚組） ￥4180（税込）
矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市（現・甲州市）生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓（株）及び（株）アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』（音楽之友社）。ほか共著多数。