
ツィメルマンは18歳でショパンコンクールに優勝して以来、半世紀もの間、トップ・ピアニストであり続けてきた。若い頃から研磨された美しいタッチと技術、洗練された音楽性によるリリシズム溢れる演奏で絶大な人気を博したが、同時に研鑽と思索を深め、近年は音楽と世界に対する深い理解と愛を感じさせる極めて純度の高い音楽を聴かせている。
そんなツィメルマンが全国で11のリサイタルを行う。興味深いのは、チラシに演目が告知されていないことだ。ツィメルマン曰く、可能な限り演目の発表を遅らせたい。その理由は「リサイタルに臨んで、その時に真に演奏したいと『渇望』する作品を、自分の心に誠実に弾きたいから」(公演チラシの中村晃氏「公演に寄せて」)。
作品の隅々まで考え抜くのは当然として、ツィメルマンはピアノのメカニックやホールの音響特性に関心を抱き、毎回のコンサートに自身で調製した楽器を持ち歩く。彼が最高の音楽をするために必要と思うことがらだが、今回はさらに一歩踏み込んだ試みと言える。
スターピアニストはたいてい数年前からコンサートの演目を決めるが、その日に何を弾きたいかなど誰にも分らない。でも演奏の際にはその曲に対する気持ちが心身に充満した状態で臨みたいと望むのは、自らの気持ちと音楽に誠実な音楽家なら当然だろう。
11月7日に12月8日のサントリー公演までのプログラムが発表になった。前半はシューベルトの4つの即興曲集作品90の4曲、後半は「プレリュード & Co(その仲間たち)」と題して、これまでにない新しい視点から独自のプログラムを準備しているとのこと。仲間たちとは、プレリュードに類した楽曲という意味だそうで、作曲家と具体的な曲は当日明らかになる。誠意の人ツィメルマンの今の音楽をしかと受け止めたい。
文:那須田 務
(ぶらあぼ2025年12月号より)
クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル
2025.11/26(水)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
12/3(水)、12/8(月)各日19:00 サントリーホール
12/18(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
※他公演あり。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

