INTERVIEW 河野智美(ギター)
節目の年、多彩な演目で示す現在地

©Fukaya Yoshinobu

 バロックから現代作品まで幅広いレパートリーを誇るギタリストの河野智美が、いま充実のときを迎えている。11月22日には王子ホールで「Anniversary〜感謝を込めて〜」と題したリサイタルを開き、何度も演奏して熟成させてきた曲から新作委嘱作品までを披露する。

 「アメリカのフレデリック・ハンドに委嘱した『ファンタジー』を演奏しますが、これは偉大なジャズギタリストでもある彼が、私の50歳を記念する今回のリサイタルに向けて献呈してくださった曲。テーマは“光と影”で透明感にあふれ、ジャズ的和声も含む希望に満ちた曲想です。バリオスの『大聖堂』を思わせます」

 バリオスの「大聖堂」は、2013年に録音した『祈り』のアルバムにも収録されている。

 「10代のころから愛奏し、常にプログラムに入れるほど。この曲を弾くとその日の自分の調子がわかる。速いパッセージは指ならしの意味もあり、コンサート全体に磨きがかかり、大好きです」

 プログラムには他にもJ.S.バッハのリュート組曲 BWV997より、G.サンス「エスパニョレッタ」などが組まれている。

 「リュート組曲は、長年演奏したいと願っていた作品。いまバロックギターに取り組んでいるのですが、やわらかい音が私の感性にとても合い、もっと探求していきたいと考えています。先日も音楽仲間の自宅で即興のアンサンブルをして、バロックの世界にますます魅了されました。スペインバロックのサンスなど、今後バロックギターで弾きたい曲もあふれています」

 今回はソロに加え、恩師である福田進一との共演により、ラモー「ミューズたちとの対話」、ソル「幻想曲」でギターデュオが予定されている。

 「福田先生のエネルギーと情熱についていく感じ(笑)。先生の得意な作品でご一緒できるのは緊張しますが、楽しみが倍増します」

 10月には荘村清志とイタリア、その後はソロでスペイン・バレンシアへと演奏旅行に出かける。イタリアでは、ハンスイェルク・シェレンベルガーが指揮する新イタリア合奏団との共演でコンチェルトも予定している。

 「荘村さんもエネルギッシュで、常に新たな方向を目指している方。私はこの旅で多くを得ると期待していますので、その豊かな気持ちを抱えたままリサイタルに臨みたい」

 彼女のもとには、スペインのギター製作の名匠マヌエル・アダリッドから「使ってください」といわれ、贈られた楽器があるという。

 「大きな音量が出るギターですので、アンサンブルなどにも向いています。バレンシアには、里帰りとしてぜひもっていきたいと思っています」

 河野智美のギターは各音を丁寧かつ繊細に、情感豊かに奏でるもので、作品の内奥に一途に没入する姿勢と作曲家への深い敬愛が印象的。今回はその美質が存分に発揮され、私たちは至福の時間を享受できるに違いない。

取材・文:伊熊よし子

(ぶらあぼ2025年10月号より)

河野智美 ギター・リサイタル Anniversary〜感謝を込めて〜
2025.11/22(土)14:00 王子ホール
問:ムジカキアラ03-6431-8186 
https://www.musicachiara.com


伊熊よし子 Yoshiko Ikuma

音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。インタビューの仕事も多く、多い年で74名のアーティストに話を聞いている。近著は「モーツァルトは生きるちから 藤田真央の世界」(ぶらあぼ×ヤマハ)。
http://yoshikoikuma.jp/