2026年1月の海外公演情報

Wiener Staatsoper Photo by Dimitry Anikin on Unsplash

『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。
[以下、ぶらあぼ2025年10月号海外公演情報ページ掲載の情報です]

曽雌裕一 編

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 来年3月から4月にかけて開催される「ザルツブルク復活祭音楽祭」には、2012年以来、何と14年振りにベルリン・フィルが復帰するということで前評判も高いが、この音楽祭で予定されているベルリン・フィルの演目のうちのいくつかは、本拠地ベルリンでも事前に聴くことができる。その第1弾ともいうべきコンサートが、1月16、17日に行われるペトレンコ指揮のマーラー交響曲第8番「千人の交響曲」。復活祭音楽祭で2回演奏されることになっているが、歌手もほぼ移動なく行われる1月のベルリンでの公演は、実質的に復活祭音楽祭の壮大なリハーサルも兼ねた賢い戦略とも考えられよう。しかし、リハと言ってもれっきとした定期演奏会での公演なので仕上げは完璧であるはずだし、チケット代も最高席が復活祭音楽祭では250ユーロ、ベルリンでは156ユーロとだいぶお安くはなっている。音響的にもまあ一般的にはベルリンのフィルハーモニーに軍配を上げる人が多いだろう。というわけで、この1月のベルリンでのコンサートはちょっとした狙い目だ。ついでながら、そのベルリン・フィルでは、1月初めに、チェコ出身の俊英として注目を浴びているポペルカがこのオケにデビューするほか、1月末にはペトレンコがスクリャービンの交響曲第3番を取り上げる、なかなか異色の公演もある。

 一方、同じベルリンでも、ベルリン・ドイツ・オペラでは、1月末から、コルンゴルトの「ヴィオランタ」やシュレーカーの「宝を探す男」など、いささかレアものオペラの好きなファンにとっては心を動かされる上演が続く。アン・デア・ウィーン劇場のルナ「ベナモール」やランディ「オルフェオの死」なども珍しいが、特に後者の指揮者や歌手は、古楽界で定評ある布陣なので、聴いて失敗はないだろう。

 さて、1月はニューイヤー・コンサートに触れないわけにはいかないが、今年はウィーン・フィルを振るネゼ=セガンを含め、いわゆる大巨匠指揮者と呼ばれるような名がずらりと並ぶ…というようなことはない。かろうじて、ティーレマンがシュターツカペレ・ベルリンでオペレッタ系の楽しそうな公演を振るのが目を引く程度。その中で、トーンキュンストラー管の音楽監督を辞した佐渡裕が、新年早々、フランス国立管とともにフランス国内ツアーを行うというのには正直意表を突かれてしまった。これを契機にフランス進出の線もあるのだろうか。また、沖澤のどかもユンゲ・ドイチェ・フィルとともにニューイヤー・コンサートと称するフランクフルト・アルテオーパーでの演奏会に登場する。日本人の活躍という点では、バイエルン放送響でヴィオラの首席奏者を務める湯浅江美子が、1月末のハーディング指揮の演奏会でR.シュトラウス「ドン・キホーテ」のヴィオラ・ソロを担当するのも楽しみだ。大野和士がハンブルク州立歌劇場でワーグナー「さまよえるオランダ人」を振るのも見落とすわけにはいくまい。

 その他のオーケストラ関係では、スキャンダルから復活したロトの指揮するSWR響のラヴェル「ダフニスとクロエ」、マケラ=パリ管のベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」(どのような様式感で演奏するのか予想が付かない興味!)、ベルリン・ドイツ響やベルリン放送響の参加する現代音楽祭「ウルトラシャル」、お元気であることを祈るブロムシュテット指揮のシュターツカペレ・ドレスデン、ケント・ナガノ指揮のhr響等々、いろいろと多彩。

 オペラでは、ベルリン・コーミッシェ・オーパーのショスタコーヴィチ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」、リセウ大劇場のワーグナー「トリスタンとイゾルデ」、パリ・オペラ座の同「ジークフリート」、オペラ・コミークのマスネ「ウェルテル」(ピション指揮)、オランダ国立オペラのヘンデル「セメレ」、モネ劇場のベルリオーズ「ベンヴェヌート・チェッリーニ」、ラトル=ロンドン響のヤナーチェク「マクロプーロス事件」など、これまた挙げきれない。恒例の「ザルツブルク・モーツァルト週間」には全く触れられなかったが、モーツァルト中心の質の高い公演がたくさん並んでいる。

(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)