ピアニスト・指揮者として飛躍し続ける反田恭平が、自身のオーケストラ「ジャパンナショナルオーケストラ(JNO)」とともに夏のツアーを行う。8月にはザルツブルク音楽祭で指揮者・ピアニストとして招聘されている彼が、帰国後の9月には兵庫、静岡、北海道の6都市を巡る。選曲への思いや、音楽に懸ける情熱、そして新たに立ち上げた室内楽シリーズについても伺った。

夏ツアーのプログラムは、プロコフィエフの交響曲第1番「古典」で幕を開ける。
「この作品は、オーケストラ奏者一人ひとりの演奏能力が高くないと成り立たないシンフォニーです。世界中のオーケストラのオーディションでは、この作品の一部が管楽器の課題曲として扱われるほど、奏者の力が試される作品なのです。JNOが演奏すれば作品の良さが出ると確信しています」
協奏曲はモーツァルトのピアノ協奏曲第23番イ長調だ。反田は今年5月、佐渡裕指揮、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団とも本作を共演している。
「トーンキュンストラー管弦楽団とは、ウィーンの楽友協会でのコンサートを経て、日本ツアーでこの協奏曲を弾いてきました。JNOではぜひ弾き振りをやりたいという思いがあります。今僕は、モーツァルトの1番から27番までのピアノ協奏曲をすべて勉強している最中で、やっと半分ぐらいまできています。今後も定期的にモーツァルトのコンチェルト・シリーズは続けたいですね」
そして交響曲はベートーヴェンの第7番だ。
「ドラマ『のだめカンタービレ』で有名になった作品ですが、実は僕自身も『のだめ』で知りました。当時、僕はまだ小学生でしたが、あまりにこの作品が好きで、中学生になった頃にはこの曲のスコアを全て暗譜していましたね。その後、指揮を学び始めて、人生で2度目に指揮したのがこの作品の第4楽章でした。思い起こせば、本場ヨーロッパで勉強を積み、いろいろなオーケストラの演奏を聴き、今年は指揮者としてザルツブルク音楽祭に招いていただけるまでになりました。『のだめ』からの19年を振り返りつつ、あらためてスコアを読み込むと、なんだか胸がいっぱいになりますね。作品にはシンプルなモチーフやフレーズが多いですが、それらをいかに丁寧に扱うかは指揮者次第。徹底的にリハーサルを積んでお聴かせしたいと思います」
それぞれの作品に込められた特別な思いについて熱く語ってくれた反田に、夏ツアーへの思いを聞いた。
「8月のザルツブルク音楽祭を経て、自分自身がどう成長できるかすごく楽しみですが、そのあとのツアーでJNOのみんなと一緒に演奏できるのが嬉しいです。プロコフィエフの交響曲は初めて聴かれる方は多いと思いますが、メジャーなモーツァルトとベートーヴェンと合わせて、楽しんでいただければと思います」
なお、JNOではあらたに「反田恭平プロデュース JNO室内楽シリーズ2025」が立ち上がった。
「室内楽はオーケストラの原点になる重要なジャンルです。今、若い奏者が室内楽に積極的に取り組む姿勢が見られ、ブームが起きつつあると感じています。第1回は若きコントラバス奏者の水野斗希さんを中心としたコンサートを開きました。彼はまだ学生ですが、日本でもトップクラスです。僕もメンバーとともに一奏者として演奏できることがとても嬉しいです。今後このシリーズは長く続けていき、室内楽にも力を入れていきたいと思っています」
反田はこの冬、ベルリン・フィルのメンバーとシューベルトの「鱒」やブラームスのピアノ四重奏曲を演奏する公演も予定している。音楽の幅をさらに広げ、深める活動に期待が募る。
取材・文:飯田有抄
反田恭平&ジャパンナショナルオーケストラ コンサート夏ツアー2025
2025.9/5(金)18:30 兵庫/たつの市総合文化会館 赤とんぼ文化ホール
9/7(日)14:30 静岡/磐田市民文化会館「かたりあ」
9/9(火)19:00 北海道/北ガス市民ホール(北見市民会館)
9/10(水)19:00 北海道/帯広市民文化ホール
9/11(木)19:00 北海道/札幌コンサートホール Kitara
9/13(土)14:00 北海道/函館市民会館
反田恭平プロデュース JNO室内楽シリーズ2025
ファゴット古谷拳一 × JNO Chamber Colors
2025.11/20(木)19:00 東京/ヤマハホール
11/21(金)19:00 奈良/学園前ホール(奈良市西部会館市民ホール)
ヴィオラ有田朋央 × JNO Chamber Colors
2025.12/1(月)19:00 東京/浜離宮朝日ホール
12/3(水)19:00 奈良/なら100年会館 中ホール
JNOチェロカルテット・クリスマスコンサート
2025.12/15(月)19:00 東京/浜離宮朝日ホール
12/22(月)19:00奈良/なら100年会館 中ホール
問:ジャパン・ナショナル・オーケストラ info@jno.co.jp
https://www.jno.co.jp

飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)
音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。


