
『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。
[以下、ぶらあぼ2025年8月号海外公演情報ページ掲載の情報です]
曽雌裕一 編
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昨年も同じ時期に触れたとおり、例年11月にはヨーロッパのメジャー・オーケストラが大規模な国外ツアーを行う例が非常に多い。なるほど、ベルリン・フィルもウィーン・フィルもコンセルトヘボウ管もこの11月には日本に来る。逆にそれらのオケの現地での11月公演はごく数回程度。しかも来日前のタイミングであれば、まさに日本公演と同じ曲目であることが多い。ただ、現地での公演には、日本ではやらない曲目が入っていることも少なくない。例えば、ウィーン・フィルが11月初めに本拠地で行う演奏会には、日本公演の曲目にはないカナダ出身、ベルリン在住の作曲家サミー・ムーサの「エリジウム」という曲がブルックナーの交響曲第5番の前に演奏される。もちろん指揮はティーレマン。ちょっとオタクの音楽ファンなら、これも是非聴きたいところだろうが、残念ながら海外公演には組み込めない諸事情があるのだろう。聴きたいということならば、現地に行くしかない。
ちなみに、昨年の11月に日本公演を行ったラトル指揮のバイエルン放送響は、今年はイギリス、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、スペインと大々的なヨーロッパ・ツアーを行う。ウィーン響やミュンヘン・フィルなども、規模の大小はあれど、同じくヨーロッパ・ツアーを予定。しかも、ウィーン響の指揮者はポペルカ、ミュンヘン・フィルの指揮者はソヒエフと、現代の中堅指揮者陣(ポペルカはコントラバス奏者から指揮者に転向して9年目の若手とも言えなくはないが…)を牽引する注目指揮者が率いている。こうしたツアーを狙って本拠地以外のホールで同じオケの響きの違いを聴くのも、また一興かもしれない。
ところで、話変わって、同じ演目のオペラや同じ地域性を持ったオペラが同一月に競合するというケースはそれほど珍しいことではないが、11月にはロシア系の面白そうなオペラのプレミエ公演がいくつか並んでいる。まずは、ハンブルク州立歌劇場のグリンカ「ルスランとリュドミラ」。序曲ばかりがやたらと有名なオペラだが、ロシア以外で全曲が演奏されることははっきり言ってほとんどない。60歳を過ぎてもまだまだ元気な名ソプラノ、アンゲラ・デノケも出演予定。次にフランクフルト歌劇場のムソルグスキー「ボリス・ゴドゥノフ」。グックアイスの指揮、キース・ウォーナーの演出というから平凡な上演ではなさそうだ。続いてバイエルン州立歌劇場のリムスキー=コルサコフ「クリスマス・イヴ」。12月にかけての季節感を狙った企画ではあろうが、コスキーの演出が当たれば、これも要注目。そして最後は、オランダ国立オペラのチャイコフスキー「オルレアンの少女」。こちらもチェルニアコフの演出が楽しみだ。この他にもプレミエではないが、ベルリン州立歌劇場のムソルグスキー「ホヴァンシチナ」にはテノールのシャーガーが出演。これまた注目公演。
これ以外の注目オペラでは、ウィーン国立歌劇場のプーランク「カルメル派修道女の対話」(ティチアーティ指揮)、ヤナーチェク「マクロプーロス事件」(ハヌス指揮)、ベルリン・ドイツ・オペラのジョルダーノ「フェドーラ」(ミクネヴィチウテ、テテルマン出演)、バーデン=バーデン秋の音楽祭のロッシーニ「チェネレントラ」(ヘンゲルブロック指揮)、チューリヒ歌劇場のヴェルディ「運命の力」(ネトレプコ出演)、ミラノ・スカラ座のモーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」、パリ・オペラ座のワーグナー「ワルキューレ」(ビエイト演出)、英国ロイヤル・オペラのヤナーチェク「マクロプーロス事件」(フルシャ指揮、ミッチェル演出)などとても挙げきれないほど注目作が多い。
オーケストラもナガノとメッツマッハーの指揮するベルリン・ドイツ響、ブロムシュテット指揮のNDRエルプフィル、ロト指揮のSWR響、サロネン指揮のパリ管など定番注目公演もあるが、日本人としての要注目は、沖澤のどか指揮のロンドン・フィルと鈴木優人指揮のパリ管。日本人の活躍は山田和樹ばかりではない!
(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)

