2025年8月の海外公演情報

Wiener Staatsoper Photo by Dimitry Anikin on Unsplash

『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。
[以下、ぶらあぼ2025年5月号海外公演情報ページ掲載の情報です]

曽雌裕一 編

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◎【8月の注目公演】(通常公演分)
 今年の場合、8月中の通常公演に挙げられるものは、わずかにドレスデン・ゼンパーオーパーやケルン歌劇場公演が8月末から新シーズン開始となる程度しか見受けられない。もちろん、ベルリン・フィルの通常公演シーズン開幕日は、通例8月23日前後ではあるが、2025/26シーズンの詳細予定は本稿執筆の時点(4月4日)ではまだ発表されていない。なお、ケルンのフィルハーモニーでは、昨年同様、通常公演というより、正確には「FEL!Xフェスティバル」公演とすべきかもしれないが、ルクス指揮コレギウム1704やベルリン古楽アカデミーによる古楽公演が予定に組まれている。

●【夏の音楽祭】(8月分)
〔Ⅰ〕オーストリア
 今年の「ザルツブルク音楽祭」のオペラ公演でどれが目玉か?と問われると意外に答えるのが難しい。モーツァルトは比較的初期の頃の作品(ポントの王ミトリダーテ、ツァイーデ)だし、ヴェルディもやや珍しい「マクベス」。ドニゼッティも「マリア・ストゥアルダ」ときて、他はヘンデルやヴィヴァルディ。おまけに、リヒャルト・シュトラウスもロシア・フランス系の大曲もなし…となると、これは!というものがなかなか絞りきれない。ただ、ザルツブルク音楽祭でオペラを演奏するウィーン・フィルは、ウィーン国立歌劇場でのレパートリー公演時に比べてリハーサルの回数が段違いに多いということもあるのだろう、演奏の出来がおおむねウィーンでの公演より冴えていることが多い。これこそがザルブルク音楽祭での目玉なのかもしれない。もちろん、ウィーン・フィルだけでなく、ピションの指揮するモーツァルト「ツァイーデ」、バルトリの出演するヴィヴァルディ「ホテル・メタモルフォシス」(パスティッチョ・オペラ)など見逃せない公演には事欠かない。オーケストラでは、ウェルザー=メストがウィーン・フィルと共に演奏するブルックナーの交響曲第9番、ペトレンコがベルリン・フィルと共に演奏するマーラーの交響曲第9番という「第9番」対決が面白い。ムーティがウィーン・フィルを指揮して演奏するブルックナー「ミサ曲第3番」ももちろん要注目。

 古楽音楽祭の定番「インスブルック古楽音楽祭」は相変わらず内容充実。ダントーネ指揮のカルダーラ「オーリードのイフィジェニー」、ルセ指揮のトラエッタ「トーリードのイフィジェニー」(共に有名なグルックの同名作品ではない)などを中核のオペラ公演として、イル・ジャルディーノ・アルモニコ、ラルペッジャータ、レゼポペ、ヴォクス・ルミニス等の実力あるアンサンブルが次々に登場する。これは壮観。

 「シューベルティアーデ」は室内楽・声楽中心の音楽祭として魅力横溢。「ブレゲンツ音楽祭」では毎年意欲的なプログラムが組まれるが、今年は、「エミリー・ディキンソンの24の詩による詩的世界への音楽の旅」と称するアメリカの作曲家ケヴィン・プッツによる「エミリー—囚人などいない」という作品が異彩を放つ。「グラーフェネック音楽祭」では、プルハー指揮ラルペッジャータの、女性による女性についての音楽「ワンダー・ウーマン」が興味津々。

〔Ⅱ〕ドイツ
 今年の「バイロイト音楽祭」の新演出公演はガッティ指揮の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」だが、それ以上にチケットが取れないのは、久々来演するティーレマン指揮による「ローエングリン」。2018年のユーヴァル・シャローンによる演出の再演だが、ローエングリンがなぜか電気技師に扮して登場する奇抜な演出が当時賛否両論を起こしたのを思い出す。演出意図はともかく、青色を基調とした色彩的には非常に印象に残る舞台であった。

 「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」では、エッシェンバッハが同音楽祭管を振って五嶋みどりと共演。パーキンソン病であることを公表したバレンボイムは、今やライフワークとも言うべきウェスト=イースタン・ディヴァン管を指揮してピアノのラン・ランと共演する。なお、この組み合わせは「ラインガウ音楽祭」や「ルツェルン音楽祭」にも登場する。

 「ブレーメン音楽祭」ではミンコフスキがレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルを指揮して、お得意のビゼーやオッフェンバックのアリアや管弦楽曲を演奏。バルト海に面するドイツ北方の地域で開催される「メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭」では、注目の若手チェリスト上野通明が、日本人ピアニスト北村朋幹の伴奏でチェロ・リサイタルを披露する。

 なお、例年8月に始まる「ムジークフェスト・ベルリン」は、今年は30日が開催初日だが、開幕演奏会はマケラ指揮のコンセルトヘボウ管が担当する。その他の詳細は次号に掲載。

〔Ⅲ〕スイス
 スイス随一の夏の定番イベントである「ルツェルン音楽祭」。今年もシャイー、バレンボイム、ラトル、ネゼ=セガン、サロネン、マケラなどの有名人気指揮者が勢揃い。「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」では、今年もヴァイオリンのコパチンスカヤがソロに室内楽に大活躍。また、ミンコフスキ指揮のレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルがドイツのブレーメン音楽祭に続き、この音楽祭にも登場するのが珍しい。ピアノの藤田真央が、来年には解散との意向を示したハーゲン・クァルテットと共演するのも興味をそそる。「ヴェルビエ音楽祭」では、人気実力とも絶好調のエベーヌ弦楽四重奏団が登場して、チャイコフスキーの弦楽四重奏曲を演奏するのも面白い。

〔Ⅳ〕イタリア
 「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」では、目玉のロッシーニのオペラとしては、今年も「ゼルミーラ」、「婚約手形」と他では聴く機会の少なそうな佳品が選ばれている一方、人気演目でもある「アルジェのイタリア女」もラインナップされている。また、ロッシーニ以外の作曲家がロッシーニのためのミサ曲として書いた作品の演奏会もこの音楽祭ならではの注目すべき企画となろう。同じく珍しい作品を指向する「マルティナ・フランカ音楽祭」は、今年はブリテンの「オーウェン・ウィングレイヴ」というこれまた珍しい作品を持ってきた。また「ヴェローナ野外音楽祭」では、日本でもお馴染みのアンドレア・バッティストーニが、昨年に続いてオーケストラ・コンサートを振るのも注目。発表が遅れていたため今月号に掲載した「ラヴェンナ音楽祭」にはムーティ、メータ、ハーディングといった人気指揮者たちが登場して色どりを添える。

〔Ⅴ〕フランス
〔Ⅵ〕ベネルクス

 古楽系随一の夏の音楽祭「ボーヌ・バロック音楽祭」は7月中の開催だが、公演内容の発表時期との関係で今月号での掲載となった。ほぼ全ての公演に◎印を付けるほどの注目公演揃いだが、コロナ以前に比べて、出演者(特に指揮者)がやや世代替わりした印象もある。とはいえ、ルセ、ノアリ、フュジェ等の常連組は今年も顔を揃えている。同じ古楽系のベルギー「フランドル古楽祭(AMUZ)」では、出演常連であるウエルガス・アンサンブルなどが存在感を示す。さらに、フランスの「サント音楽祭」には、デュメストル、ヘレヴェッヘ、ニケらの有名指揮者の出演があり、「サブレ音楽祭」にもレザクサン、アンサンブル・イル・カラヴァッジョ等の注目演奏団体が登場するなど、まさに古楽系音楽祭林立・競合のフランス・ベネルクス地域と言える。なお、オランダの「ユトレヒト古楽祭」は5月6日に詳細が発表される予定。また、アムステルダムで行われる「フリーンデン・ロテレイ・サマー・コンサート」には、日本から徐々に海外での活動が見られるようになってきた人気ピアニストの角野隼斗が登場する。

〔Ⅶ〕イギリス
 イギリスの「プロムス」は次号で紹介予定。「エディンバラ国際フェスティバル」には序盤にチョン・ミョンフン指揮中国国家大劇院管という韓国と中国のコラボ公演が実現する。一方、自国イギリスのパッパーノ指揮ロンドン響は、プッチーニのオペラ「修道女アンジェリカ」を取り上げるなどこれも興味深い演目。「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」では、ソプラノのオールダーが出演するモーツァルト「フィガロの結婚」が楽しみ。

〔Ⅷ〕北欧
〔Ⅸ〕東欧

 スウェーデン「ドロットニングホルム宮廷劇場」は、1766年に建設されたバロック劇場そのものを実体験できる重要な存在。今年は、あまり演奏頻度が高いとは言えないテレマンのオペラから、有名題材を描いた「オルフェウス」が選ばれている(コルティ指揮)。

 ルーマニアの「ジョルジェ・エネスク国際フェスティバル」は「音楽祭」と「コンクール」の隔年開催だが今年は「音楽祭」。8月には、ハーディング指揮ローマ・サンタ・チェチーリア国立管や、ベルチャ弦楽四重奏団とレオンコロ弦楽四重奏団の合同演奏など興味を引くものが並ぶ。

(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)