ヴィキングル・オラフソン ゴルトベルク&究極のゴルトベルク

2篇の物語が作り上げる新時代の森

左:ヴィキングル・オラフソン (c)Markus Jans
右:清水靖晃 (c)Yasuo Konishi

 ああ、また「ゴルトベルク」か…、と思ったあなたは、その時点で素晴らしい体験へのチャンスを逃してしまっている! アイスランド出身で世界的な活躍が注目されているピアニスト、ヴィキングル・オラフソンがこの12月に来日し、2つのバッハ「ゴルトベルク」コンサートを開催する。ひとつはもちろん彼単独の「ゴルトベルク変奏曲」のコンサート、もうひとつはオラフソンの演奏に加え、サクソフォンの鬼才・清水靖晃&サキソフォネッツによる〈5サクソフォン+4コントラバス〉という編成にアレンジされた「ゴルトベルク」が演奏されるコンサートだ。

 オラフソンと言えば、日本で演奏した「バッハ・カレイドスコープ」の鮮やかでアイディアに溢れた実演を思い出すけれど、彼が25年来、念願にしていたのが「ゴルトベルク変奏曲」の録音だった。それはちょうどこの10月にリリースされた。今シーズンは全世界でこの作品ばかり演奏しているというが、おそらくステージごとに異なったイマジネーションをたたえた演奏を展開しているに違いない。日本での実演が楽しみである。

 すみだトリフォニーホールと住友生命いずみホールで開催される「究極のゴルトベルク」では、そのオラフソンの「ゴルトベルク」に、清水靖晃&サキソフォネッツの演奏が続く。これは日本でしか聴くことのできない特別なコンサートである。2回「ゴルトベルク」が演奏される(つまり3時間半ほどかかる)わけだが、当然のように楽器も違えば、編成も違う。しかもサキソフォネッツによる演奏は、すでに録音もリリースされているように、コントラバスを加えた編成だ。サクソフォンの軽やかな躍動の下で、この長大な30の変奏曲を支えるバスの音型がよりくっきりと浮かび上がり、鍵盤楽器だけの演奏とは違う立体感を作り上げている。

 オラフソンに言わせると「この変奏曲は壮大な“オークの木”のようで、壮大ではあるものの、有機的で生き生きとしていて、活気に満ちている」そうだが、その想いは彼の演奏の隅々に感じることができる。そして、彼の演奏から発散された「光合成により生み出された音楽的な酸素」が充満したホールに、サクソフォンとコントラバスによる新たなサウンドの樹が伸びていく。それはバッハの傑作をこれまでにないパースペクティヴの中に置いてくれるはずだ。これからは年末には「ゴルトベルク」だね。そんなことをコンサート帰りに呟く若者も出てくるに違いない。
文:片桐卓也

ヴィキングル・オラフソン ゴルトベルク
2023.12/2(土)20:00 サントリーホール
(完売)
12/6(水)19:00 札幌コンサートホール Kitara(小)
12/8(金)19:00 アクトシティ浜松(中)
12/10(日)15:00 名古屋/三井住友海上しらかわホール

究極のゴルトベルク ヴィキングル・オラフソン + 清水靖晃 & サキソフォネッツ
2023.12/3(日)14:00 すみだトリフォニーホール
12/9(土)14:00 大阪/住友生命いずみホール
問:チケットスペース03-3234-9999 
https://avex.jp/classics/vikingur2023/

CD『J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲』
ユニバーサル ミュージック
UCCG-45082
¥3080(税込)