MET総裁ピーター・ゲルブの来日記者会見

 2011年6月に、メトロポリタン歌劇場(通称MET)が《ラ・ボエーム》《ドン・カルロ》《ランメルモールのルチア》という人気演目を携えて5年ぶりの来日公演を行う。この大引越し公演に多くのオペラ・ファンが関心を寄せているが、公演に先立って同歌劇場の総裁を務めるピーター・ゲルブが6月に来日し記者会見を行った。“オペラ界の変革者”と呼ばれる彼は映画、レコーディング、ラジオ放送、コンサート、オペラ、そして音楽祭など様々な分野で活躍。多くの受賞歴を誇る敏腕プロデューサーとして名高い。ソニー・クラシカルの社長を務めた経歴もあるゲルブは、過去に日本の「サイトウ・キネン・フェスティバル」の企画にも参加した。以下は会見での発言の要旨。
 今回の3演目について。
 「質の高い作品を持ってきたかった。いずれも音楽的な特色の違う作品。オペラは最高のキャスティングでないと意味がないと考えており、《ドン・カルロ》のヨナス・カウフマンとオルガ・ボロディナ、《ラ・ボエーム》のアンナ・ネトレプコ、と世界のトレンドといえるもっとも人気のある3人の歌手を起用することができた。ほかにもバルバラ・フリットリ、ドミトリー・ホロストフスキーやルネ・パーぺなど主役級の歌手たちも来日予定で、こんな豪華なキャスティングはニューヨークでもないことだ」
 2006年に就任した際に目指したことと成果は?
 「まず、オペラという芸術に広く関心をもってもらうことを“自分自身へのチャレンジ”と位置づけ、そのために2つの具体的な目標を掲げた。まずMETを、そして世界中のオペラを活性化させること。次にオペラを観たことのない人たちがいかにオペラに対して楽にアクセスできるようになるかを考えた。“オペラの活性化”については、世界的に活躍しているトップの演出家たち─パトリス・シェローなど─を招き、新しい現代的なプロダクションを制作した。それにより新しい時代を切り開くことができた、という手ごたえを感じている。2つ目の“オペラへのアクセス”だが、タイムズ・スクエアでの公開視聴、公開リハーサル、24時間METの演奏を聴くことできるラジオ番組の制作などに加えて、METのライヴ映像をリアルタイムで世界各地に配信し、映画館で観賞できる『METライブビューイング』を立ち上げた。これによりアメリカのみならず、世界中の人がMETに関心を抱くだろうと思っている。実際にMETは若い聴衆の数が確実に増えている」
 また、40年間にもわたりMETの音楽監督を務めてきたジェイムズ・レヴァインについては「METのオーケストラを世界的なレベルにまで引き上げてくれた」とその功績を絶賛するコメントを残した。
 会見当日の夜には、東京オペラシティコンサートホールにて「メトロポリタン・オペラ プレイベント」が開かれた。内容は前半がゲルブのスピーチ、後半が来年のMET《ラ・ボエーム》ムゼッタ役で来日する新人歌手のスザンナ・フィリップス(ソプラノ)とディミトリー・ピタス(テノール)によるコンサート。2人の瑞々しい歌唱と華麗な演技に、この日のギャラリー(抽選で無料招待された学生たち)は大いに沸いていた。
メトロポリタン・オペラ来日公演公式サイト