同じ誕生日(!)の学友ふたりが創り出す奇跡
2021年度、東京芸術劇場が新たなリサイタル・シリーズ「VS(ヴァーサス)」をスタートさせた。これは「ピアノ・デュオ(2台ピアノ)の演奏」によって2人の異なる個性を持つピアニストがそれぞれの表現力や感性、技術がぶつかり合うことで生まれる、ライブでしか味わえない熱狂的な空間を創造する新しいリサイタル。「予想することができない衝突」「奇跡的な一瞬を聴き手と共に体感しよう」という試みである。第4回もパワフルな顔合わせ。世界を駆ける人気ジャズ・ピアニスト山中千尋と、ピアニスト&作曲家としてマルチな活躍を続けている妹尾武の登場。ふたりは桐朋学園大学で学んだ音楽仲間。クラシックを学びながら山中はジャズの道へと歩みを進め、ニューヨークを拠点にジャンルをかろやかに飛び越え、さまざまなミュージシャンとの共演を重ねている。一方、妹尾も大学時代からポップスへとフィールドを広げ、現在は作曲・作詞家としてテレビやラジオ番組の音楽も手掛け、チェロの古川展生、尺八の藤原道山と「KOBUDO-古武道-」を結成するなど視野は広い。
プログラムはジャジーな魅力に富むガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」、壮大で旋律美に彩られたラフマニノフ「交響曲第2番 第3楽章」、山中の十八番に妹尾が新風を吹き込む「八木節」。ふたりの自由闊達でのびやかで枠にとらわれない「VS」は、何が飛び出すかわからないミステリアスな魅力に富む。聴き手も心してその魔力に酔いたい。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2022年6月号より)
2022.6/3(金)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296
https://www.geigeki.jp