演奏者の身体には音を操る技術が詰まっており、その技術が楽譜を音に変えていく。だが、楽譜を外し演奏者たちが互いの動きを読みながら演奏に及んだら何が起こるか? その、ほとんどルールのない格闘技のような記録が『Spitha』だ。大竹徹のヴィオラに触発され、奈良ゆみが持てる技を次々と繰り出す。声は唸り、叫び、倍音を響かせ、ぽつりと単語を投げ込む。パーカッションの田中康之が静かなパルスで暗い情熱を鼓吹する。それらは融合し聴き手の感情や記憶を刺激して、場にもののけが憑いたようになる。演奏後の「田中さんとは今日初めてお会いしたんです、ここで」という奈良のコメントには驚いた。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年5月号より)
【information】
CD『Spitha 火花―空にたわむれる/奈良ゆみ&大竹徹&田中康之』
奈良ゆみ/大竹徹/田中康之:I〜III
奈良ゆみ(ヴォイス/りん/貝殻 他)
大竹徹(ヴィオラ)
田中康之(パーカッション)
収録:2014年12月、座・九条(ライブ) 他
コジマ録音
ALCD-5004 ¥2750(税込)