名匠が繰り出す新旧イタリア音楽の魅力
名匠という称号にふさわしいマエストロにも、さまざまなタイプがある。イタリアのミラノ生まれ、今年で86歳になるアルベルト・ゼッダの音楽は、爽快かつ作為のないカンタービレにあふれ、「楽譜に命が吹き込まれるとはこういうことか」という気にさえさせてくれる。ロッシーニ研究の第一人者でもあるマエストロだが、藤原歌劇団の《どろぼうかささぎ》や東京フィルとの《ウィリアム・テル》(ハイライト)、「スターバト・マーテル」など、これまでにも納得の名演を聴かせてくれた。
5月の定期演奏会でも、当然ながらロッシーニの魅力が満開。《ウィリアム・テル》からのバレエ音楽や《セミラーミデ》の序曲はもちろん、なかなかコンサートでは聴けないカンタータ「ジャンヌ・ダルク」が目を引く。有名なオルレアンの乙女を英雄叙事詩のように歌い讃える20分弱の作品だが、ローマ生まれの新星メゾであるテレーザ・イエルヴォリーノの歌にも、オーケストラが繰り出す“カンタービレの嵐”にも期待が持てそうだ。長大でドラマティックなモノローグ風アリアのようでもあり、ロッシーニはまだまだ追求しがいがあるとさえ思える印象深い曲である。他にも、聴いてみると「こんなにいい曲があったのか!」と驚かされるシューベルトのニ長調交響曲(第3番)、20世紀イタリアの新古典派であるマリピエロの交響曲という、いずれもゼッダこだわりの選曲。発掘魂を満足させてくれるプログラムだ。
文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ2014年5月号から)
第847回サントリー定期シリーズ
★5月16日(金)・サントリーホール Lコード:34760
第848回オーチャード定期演奏会
★5月18日(日)・Bunkamuraオーチャードホール Lコード:34765
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
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