ガエタノ・デスピノーサ(指揮)

急上昇のタクトで、音楽史の転換点を聴く

 ガエタノ・デスピノーサは、1978年イタリアに生まれながら、2003〜08年ドレスデン国立歌劇場のコンサートマスターを務めた。そして「当時の音楽監督ルイジから認められて」指揮者へ転身。ヨーロッパ各地でセンセーショナルな成功を収めている。来日も多く、2012年4月にはNHK交響楽団に客演。団員&聴衆から圧倒的支持を受け、この5月、定期演奏会デビューを果たす。
「N響は私が初めて指揮した世界レベルのシンフォニー・オーケストラ。非常にエキサイティングな、忘れ得ぬ経験でしたので、今回も楽しみにしています」
 イタリアもの中心の前回とは一転、今回はフランクとワーグナーを取り上げる。
「ドレスデンは、ワーグナーが音楽監督を務め、《タンホイザー》などを初演した、彼とゆかりの深い歌劇場です。私はその音楽と影の中で毎日をすごしてきました。ですから今回演奏するのは、私にとってマイルストーンといえる作品です。そしてワーグナーをシンフォニックに解釈したのがフランク。両者を並べることで、新しい和声探求の流れを聴いていただきたいと思います」
 後半のワーグナー・プログラムには、「彼の歴史をたどる」意味がある。
「《さまよえるオランダ人》は初期のロマンティックな作品で、創作活動の入り口にあたります。《トリスタンとイゾルデ》の前奏曲はオペラから楽劇への移行期の音楽。また《ワルキューレ》の1曲では、炎などの効果音的な表現や、ノスタルジックな側面を感じることができます。そして《神々のたそがれ》の『葬送行進曲』は、彼が成し遂げた音楽の再現部です」
 前半はフランクの交響曲ニ短調。
「ここでは、《トリスタン》に通じる音階で繋がれたような旋律が、ゆっくりと明確な方向性を持って進み続け、和声が旋律的に、旋律が和声的に使用されます。常に流れる旋律線の上下で様々な対位法的な展開が生まれる——この音楽史上の重要な発展を成したオペラ作品と交響曲を併せて聴くのが、今回の妙味です」
 バリトンのマティアス・ゲルネが、「オランダ人のモノローグ」と「ヴォータンの別れ」を歌うのも、実に興味深い。
「彼は現代を代表するリート歌手であり、感情の移行を音楽と言葉の両方で語ることができます。バーナード・ショーが言うように、言葉のアーティキュレーションと性格を把握してきちんと歌えば、大声を張り上げなくてもしっかりと伝わるのがワーグナーの音楽。彼はそれが完璧にできるのです」
 オペラに明るく、作曲も行うデスピノーサのキャパシティは、ことのほか広い。転向後の急浮上と年齢を鑑みれば、将来有望な大物候補だ。N響定期という勝負どころの今回、その真価をぜひ体験しておきたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2014年4月号から)

NHK交響楽団 第1781回定期公演 Aプログラム
★5月10日(土)、11日(日)・NHKホール Lコード:31875
問:N響ガイド03-3465-1780
http://www.nhkso.or.jp