「源氏物語」とシベリウスが合流し広がる世界
映画で、ドラマで、教養番組で、CMで、私たちは千住明のあまたの音楽を耳にしてきた。映像の意図に的確な音を与え奥行をぐんと作り出す仕事には、場面に見合った表現をオーケストラで構築する才能、耳から心へとすっと届くしゃれた旋律を生み出す才能、言葉のもつ抑揚をメロディへと具現化する才能などを生まれもち、長年のキャリアの中で磨かれた力が十二分に発揮されている。
これらの音楽が心に響いた人は、10月の東響オペラシティ定期でじっくりと耳を傾けてみてはいかがだろう。純音楽分野でも精力的な千住だが、この日は代表作・詩篇交響曲「源氏物語」が披露される。千住の声楽曲の魅力はなんといっても、日本語の美しさを引き出す自然なメロディラインにある。その才が生きるには大衆に訴える優れた言葉の紡ぎ手たちとのコラボが欠かせないが、この点でも千住はふさわしいパートナーを選んできた。「源氏物語」では松本隆が、千年前のいにしえの悲恋を格調高い現代的ロマンスへと語りなおしている。指揮は千住作品に深い理解を寄せてきた大友直人。独唱には着実な歩みを続ける嘉目真木子をソプラノ、司会にプロデュースにと活躍を続ける錦織健をテノールに配している。
組み合わせはシベリウスの交響曲第2番。不思議にも思えるとりあわせだが、シベリウスもフィンランドの国民叙事詩に根差した創作を行っているし、千住のオーケストレーションの清涼感、抒情性、ダイナミズムとの相性もよさそうだ。言われてみれば…という選曲の妙を感じる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年10月号より)
東京オペラシティシリーズ 第118回
2020.10/3(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp