アトリウム弦楽四重奏団

チャイコフスキー全曲は大きなチャレンジですね

 ロンドンとボルドーの弦楽四重奏コンクールで優勝し、世界を舞台に躍進中のアトリウム弦楽四重奏団が、11月末に、チャイコフスキーとショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲演奏プログラムを携えて来日する。
「チャイコフスキーの音楽にはそれは深い感情と魂がこもっていて、我々アトリウム弦楽四重奏団の一部になりきっています」というメッセージを寄せていた楽団員に、フランスはアルザス地方、ヴィッセンプールで行われた国際音楽祭出演中に話を聞いた。
 チャイコフスキーの全3曲についての彼らの言葉は重く、真摯だった。
「まるで3人の作曲家が書いたようにそれぞれが違います。第1番はロマン派の中で最もパワフルで、第2番は重くて忍耐強い。第3番は最も複雑です。いろいろな要素が組み合わさっているので、弦楽四重奏の中で最も難しいものの一つです」(アントン・イリューニン/第2ヴァイオリン)
「第2番や第3番を演奏した後、私の心や感情の中からすべてのパワーを奪い取ってしまうのでぐったり疲れます。これを一晩で演奏するのは大きなチャレンジ、だからこそとても楽しみですね」(アンナ・ゴレロヴァ/チェロ)
 さらに来日公演では、ショスタコーヴィチの全15曲を1日で連続演奏するマラソン公演(12/1・武蔵野市民文化会館、12/7・新潟/りゅーとぴあ)を含む。演奏する方も聴く方もさぞたいへんだろう。
「リハーサルで一番重要なのは実際に練習することよりも、我々個々のムードやフォームを調和させて本番のためのプロセスに入ることなのです。つまり一緒に過ごすことが大切なのです」(イリューニン)
「我々の方が観客の方よりも疲れないと思いますね。演奏しやすいのです。一気に続けるなら、一度だけその気持ちに入ればいいのだから」(ドミトリー・ピツルコ/ヴィオラ)
 実際彼らの演奏は、作曲家の生涯を辿る暗い翳りの中にときおり煌めく光を放ち、苦しみと軽やかさの絶妙なバランスを保つものである。ところでロシア音楽は彼らにとってのライフワークなのだろうか?
「いいえ、違います。ベルリンにはドイツ系の音楽を勉強しに行ったのですから。今後はベートーヴェンのツィクルスを考えています。我々の人生の特定の時期に、重要だと考えるレパートリーを明確に表現したいだけです。2年後にはメンデルスゾーンも弾きたい。ドイツ人だからではなく、音楽の世界、弦楽四重奏の世界にとって重要だからです」(イリューニン)
取材・文:秋島百合子
(ぶらあぼ2013年11月号から)

★12月9日(月)・東京文化会館(小)
問 テレビマンユニオン03-6418-8617
http://www.tvumd.com

ⒸGelucka Mergelidze
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