デュオとトリオで聴かせる新たな魅力
昨年6月にスイスの名門バーゼル音楽院の修士課程を最高点で修了し、現在は同音楽院の教職課程で学ぶチェリストの新倉瞳。この11月に行うリサイタルでは、ピアノとのデュオのほか、ヴァイオリンを加えたトリオも聴かせる2段構成プログラムが興味深い。
前半はピアノ(鈴木慎崇)とのデュオ。サン=サーンスの「白鳥」、ポッパーのタランテラ、シューマンのアダージョとアレグロ、ドビュッシーのソナタの4曲が並ぶ。
「メインは昨年が生誕150周年だったドビュッシーの最晩年のソナタ。演奏時間は短いですが、超絶技巧が満載の難曲ですね。毎回演奏するたびに多くの発見があり、演奏家として成長させてくれる大好きな作品です」
そして後半は、韓国出身の若手ヴァイオリニスト、シン・ヒョンスをゲストに迎えてのトリオ。2人はいしかわミュージックアカデミーを同じ年に受講して以来の仲だが、今回が初共演。新倉は「このような“アジアの交流”をずっとやってみたかった」と語る。演目に選ばれたのは、新倉が“ある意図”で強く推したというショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番。作曲者の親友だったソレルチンスキーの急死を悼んで書かれた作品だが、第1楽章の冒頭でチェロが奏でる悲痛な嘆きの旋律を覚えておくと、最終楽章の衝撃がより鮮明に聴こえることだろう。
「ここ数年室内楽に集中して取り組む中で、今回のように初顔合わせの人々が集まる場合と常設の団体とでは、相性のいい音楽の種類が違うと思うようになりました。その点、ショスタコーヴィチの第2番は難曲ですが、3人のソリスティックな魅力を光らせながら、アンサンブルとしても一つにまとまるような気がしたのです。3つの楽器の独特の絡み、それにフラジオレットといったショスタコーヴィチならではの特殊奏法が数多く出てくるので、彼の作品を初めて聴く方にもきっと面白く聴いていただけると思います」
近年はバーゼル室内管のツアーに参加したり、カメラータ・チューリッヒのゲスト首席奏者を務めたりと、活躍の場をますます広げている新倉。それと同じように順調にキャリアを重ねている同世代のヒョンスとの初共演に、大きな期待を寄せている。
「ロン・ティボーなどのコンクールも含め、常に前向きな姿勢で新しいステージに挑戦し続けるヒョンスを心から尊敬しています。その一方で、クラシックの裾野を広げるような活動も忘れないのが凄いですね。そんな彼女の情熱と間近で向き合えて、本当に幸せです」
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ2013年11月号から)
★11月9日(土)・かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール
問:かつしかシンフォニーヒルズ03-5670-2233 http://www.k-mil.gr.jp
ローチケ Lコード33864