プロコフィエフの“響きの広がり”をお楽しみください
上野優子は桐朋学園大学2年次在学中に渡欧、イモラ国際ピアノアカデミー、パリ・エコールノルマル音楽院ピアノ科コンサーティスト課程で研鑽を積んだピアニスト。幅広いレパートリーを持ち、多彩なアイディアに富んだプログラムによるコンサートで多くの聴衆を魅了してきた彼女は、昨年からプロコフィエフのソナタ全曲演奏に取り組んでいる。
「ピアノ・ソナタはプロコフィエフの生涯にわたって書かれています。創作時期によって様式が顕著に異なり、現代のピアノという楽器の特性を最大限に表現できます。これまでコンクールや演奏会など、私の人生の節目にはいつもプロコフィエフがそばにいた、ということもあり、全曲演奏に取り組みたいと思いました。今回は第3番と第4番の2曲を弾きます」
このシリーズではただ全曲を演奏するのではなく、世界の一流ピアノメーカー6台を、回ごとに変えるという試みが行われる。今回使用されるのはイタリアの「ファツィオリ」だ。
「楽器の特性に合わせて曲目を選びました。ファツィオリは伸びのある響きが魅力的です。創作初期の頃のプロコフィエフの作品は、鋼のような響きや歯切れの良いリズムもありますが、メランコリックで彼なりのロマンが感じられる箇所が多くあります。ファツィオリはパワーもあるので、作品の持つ勢いのある流れ、“響きの広がり”をお楽しみいただければと思います」
今回はプロコフィエフに加え、ドビュッシーとスカルラッティも取り上げる。
「スカルラッティはその人生の多くをスペインで過ごしましたが、ナポリの出身、ファツィオリと同じイタリア人ということで、ぜひ演奏したいと思いました。今年没後100年を迎えたドビュッシーも、少しの期間ですがローマに留学していますし、プロコフィエフのペテルブルグ音楽院での師であるチェレプニンはドビュッシーに大きな影響を受けています」
イタリア、フランスで研鑽を積んだ上野はピアノの技術と共に様々な見識も磨いてきた。それが今回のリサイタルでも存分に発揮されることであろう。
「フランスでは響きのグラデーションや新しい感覚を、イタリアは景色そのものが芸術的で、作曲家や画家に多くのインスピレーションを与えたということがよく理解できました。どちらの国も哲学・詩・絵画・歴史など膨大な知識を持っていらっしゃる方が多く、私も刺激を受けて表現の幅が広がったように思います。今回はスカルラッティ、ドビュッシー、プロコフィエフと時代もスタイルも違う3人の作曲家を扱いますが、その響きの妙を楽しんでいただけるよう演奏してまいります」
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2018年11月号より)
上野優子ピアノリサイタル プロコフィエフ・ソナタ全曲シリーズ
プロコフィエフにはどのピアノがお似合い? 第2回 ファツィオリ
2018.12/13(木)19:00 すみだトリフォニー(小)
問:新演03-3561-5012
http://www.shin-en.jp/