10月29日(日)まで、JCIIフォトサロン(東京都千代田区)で、木之下晃作品展 「石を聞く肖像」が開催されている。
1960年代から半世紀にわたり、指揮者、演奏家、作曲家を撮り続けた写真家、木之下晃(1936ー2015)は、世界のクラシック音楽家の演奏する内面を凝視した作品群で知られ、彼によって「音楽がフィルムに刻印された」と、多くの音楽家からも高い評価と信頼を得た。
しかしその一方で、20代のころに出会った土門拳や林忠彦による肖像写真のような、オリジナリティあふれるポートレイトを撮りたいとの思いも強く抱いていたという。そうした「違う視点で撮影を」と思索するなか、“天から降って来たように”目に飛び込んできたのが、約20年机上に置いていた、河原で拾ったひとつの石だった。
「この石を見て感じたことをカメラの前で表現してください」。
フィンランドに渡り、被写体に石を持たせて撮影に臨み 「石を聞く肖像」の制作をスタート。以来、20年以上の年月をかけ、木之下自身が撮りたいと思う芸術家一人ひとりに了解を得ながら撮影された肖像の数は200点を超える。それらはポートレイト写真集『石を聞く肖像』(飛鳥新社、2009年)として纏められたが、今回はそのうち約70点(すべてモノクロ)がオリジナルプリントで初公開されている。
「ポートレイトは被写体に写される感動がないとだめだと気づいた。アーティストはみんなユーモアがあって、石を持っていくと自分は何をやろうかと面白がってくれる」。
“とっておきのポーズを…”と 小石を頭の上にのせる振付家のローラン・プティや、大のサッカーファンゆえに“フットボール選手になりたかった”とボールに見立てて足にのせる指揮者のダニエル・ハーディング、“こんな芸当もできるかな”と 額にのせてバランスをとる様子の指揮者のクラウディオ・アバド・・・ひとつの小さな石を通して芸術家たちの自由で伸びやかな様子を垣間見ることができる作品展だ。
◆木之下晃
1936年長野県生まれ。諏訪清陵高校、日本福祉大学で学ぶ。中日新聞社を経て博報堂に入社。広告写真を撮る一方で、1960年代より、ポップスからクラシックまで幅広く音楽の撮影を開始。以来一貫して『音楽を撮る』をテーマに撮影活動を続けた。1974年にフリーとなり、次第にクラシック音楽に的を絞って、「世界の音楽家」「世界の劇場」「作曲家の足跡」「音楽家のオフステージ」「ポートレイトシリーズ〜石を 聞く肖像」など、多彩な角度から音楽を記録。その写真からは「音楽が聴こえる」と、ヘルベルト・フォン・カ ラヤン、レナード・バーンスタインなど、時代を代表する巨匠達からも高い評価を得ていた。フィルムでの撮影・現像に最後までこだわり続け、生涯に撮影したフィルムは3万本に及ぶ。
1971年日本写真協会賞新人賞、1985年第36回芸術選奨文部大臣賞、2005年日本写真協会賞作家賞を受賞、2006年紺綬褒章受章、2008年新日鉄音楽賞特別賞を受賞。写真集は『世界の音楽家・全3巻』(小学館)『The MAESTROS』(小学館)『石を聞く肖像』(飛鳥新社)など生涯約50冊を出版。写真展の開催は約100回を数える。2015年1月12日、死去。享年78。
◆木之下晃作品展『石を聞く肖像』
2017年10月3日(火)〜10月29日(日)
JCII フォトサロン(千代田区一番町25番地JCIIビル1階 )
●期間:2017年10月3日(火)〜10月29日(日)
●開館時間:10:00〜17:00
●入場料:無料
●休館日:毎週月曜日
木之下晃アーカイヴス
http://kinoshita-akira.jp/jp/
また、11月28日にはNHK BS プレミアムでハイビジョン特集「カメラで音楽を撃て~写真家 木之下晃 創造の秘密~」(初回放送:2007年12月4日(火) 、出演:木之下晃、小澤征爾、佐渡裕、リッカルド・ムーティ、ほか。ナレーション:宮崎美子)が10年ぶりに再放送される。
◆NHK BSプレミアム
プレミアムカフェ「カメラで音楽を撃て~写真家 木之下晃 創造の秘密~」
2017年11月28日(火)9:00〜
(再放送:2017年11月29日(水)0:30〜)
http://www4.nhk.or.jp/pcafe/