三浦章宏(ヴァイオリン)

C)Yoshinori Kurosawa

 東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターとしてのみならず、ソロや室内楽など多彩な活動を展開している三浦章宏が1日で、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全10曲の完奏に挑む。三浦ならではの意欲的なリサイタルだ。
 三浦は50歳になった2011年に「自分のホームグラウンドはオーケストラだから、コンチェルトを弾きたい」という思いから、“コンチェルト・リサイタル”と銘打ってバッハ、ベートーヴェン、チャイコフスキーを1日で演奏し話題を呼んだ。
「翌年に、バッハの無伴奏ソナタとパルティータ全曲を弾いたんですね。そしてその2年くらい後にブラームスのソナタ全曲を清水和音さんと共演し、その流れの中でベートーヴェンのソナタへの挑戦があります。10曲まとめて勉強したいとずっと思っていたのです。去年の7月から、大阪の小さなホールで3回に分けて、ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏に取組み、この6月に完結させました。人生で初めて10曲を弾き、ベートーヴェンのパーソナリティに親密感を覚えましたね。また、ヴェーラ弦楽四重奏団としての活動でも僕が目標としていたベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏を達成し、これも重要な背景となっています」
 今回のソナタ全曲リサイタルでは、番号順に弾いていくことで「彼の人生が見えてくる」という。
「若い時の作品にも、持って生まれた魂や新しい世界を切り拓く力を感じ、ベートーヴェンだな、と思います。作曲家の充実期に書かれた第9番『クロイツェル』はこのジャンルで一番有名ですが、第10番を聴いたら、ベートーヴェンのその後の深淵な世界に向かっている内面の変化や深みを感じることができます。ベートーヴェンは最高のメロディ・メーカーだと思います。ベートーヴェンを弾いていると、もう夢中になりますね。今は、毎日のように練習していて彼の魂と触れ合うことができて楽しい」
 ピアノは横山幸雄が務める。
「ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタはピアノのパートも非常に重要ですから名手に弾いてもらわないと。近年、オーケストラとの共演での彼の音楽的な充実度が凄くて、彼のことを尊敬しているんです。最高のピアニストである横山さんが快く共演を引き受けてくださったことをとても幸せに思います」
 最後に、今後の活動の方向をきいてみた。
「オーケストラは続けたいのですが、今56歳ですから、いつまでもというわけにはいきません。それからクァルテットの活動にも力を入れたい。また、再度バッハの無伴奏ソナタとパルティータ全曲に取り組みたいですし、60歳になったら、もう一度、コンチェルト・リサイタルに挑戦したいですね」
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ2017年10月号から)

三浦章宏 with 横山幸雄 ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲リサイタル
2017.10/1(日)14:00 紀尾井ホール
問:1002(イチマルマルニ)03-3264-0244 
http://www.1002.co.jp/