若き俊英が導く東京交響楽団の未来とは!?ロレンツォ・ヴィオッティ 第4代音楽監督就任 記者会見

東京交響楽団 第4代音楽監督 ロレンツォ・ヴィオッティ

 今年で創立80周年の節目となる東京交響楽団は、第4代音楽監督として今世界から注目を集める指揮者の一人、ロレンツォ・ヴィオッティを迎えた。5月21日、同楽団はマエストロの就任記者会見をミューザ川崎シンフォニーホールにて開催、ヴィオッティをはじめ、理事長の岡崎哲也、楽団長の廣岡克隆らが出席した。

 会見に先立ち同ホールで今月17日に行われた就任披露公演では、ベートーヴェンの交響曲第1番、マーラーの交響曲第1番を披露し、好評を博した。楽団長の廣岡は、「前任のジョナサン・ノット氏との素晴らしい関係を超え、新たな時代へと進むことは非常に難しい決断でもあった」と率直に振り返りつつ、ヴィオッティの就任披露コンサートは期待を遥かに超えるものであったという。「届いてきた音は、これまで東響が強みとしてきた透明感や機能性とは違った次元の、自然体で深みがあり、洗練されたものでした。彼がステージに登場した瞬間から空気が変わりました。『客席を巻き込む力』を持っていると思います」と、熱く新監督への期待を語った。

 ヴィオッティはスイス・ローザンヌ出身で、イタリア人の父とフランス人の母を持つ。リヨンでピアノ、声楽、打楽器を学んだ後、ウィーンのゲオルク・マルクの指揮者コースや、ハンガリーのリスト音楽院で研鑽を積み、2014年に東京交響楽団でプロオーケストラ・デビューを飾った。その後、ウィーン・フィルをはじめベルリン・フィル、コンセルトヘボウ管など名だたる名門と共演を重ね、30代という若さでありながら確かな演奏経験を持つ。そんな俊英が、楽団の未来について語った。

川崎から世界へ 伝統あるオーケストラのさらなる飛躍

 挨拶の冒頭で「本当に大きな責任を感じています。前任者から、素晴らしいオーケストラと素晴らしい聴衆を引き継いだことは大きな誇りです。これからの契約期間、私の持てるすべてのエネルギーをオーケストラ、スタッフ、そして聴衆の皆さんに捧げたい」と就任の喜びを述べた。取り組むべき課題として挙げたのが聴衆の若返りについてで、「重要なのは聴衆、特に若い世代を巻き込んでいくことです。オーケストラの楽員は若返っているが、客席の若返りは遅い。どうすれば新しい世代をホールへ招き入れられるか。これは私の最も重要なミッションであり、東京にいる時間を使って彼らを近づけるために全力を尽くしたい」と語る。

 また同楽団が拠点とするミューザ川崎シンフォニーホールの音響については「指揮者にとって良いホールで働けることは、ミシュランレストランのシェフが最高の食材と最高のキッチンを手に入れることと同じ。最高の環境があれば、より素晴らしい料理(音楽)を作ることができます。先週のマーラーでも、このホールの音響の後押しがあって初めて生まれる神秘的な響きを実感しました」とし、さらに市民の約8割が川崎市を「音楽の街」として認識しているという調査結果に触れながら、「このホールで演奏する東京交響楽団を、名実ともに日本一のオーケストラにしたい。そして日本国内だけでなく、アジア、そしてヨーロッパの聴衆へも、クオリティの高い音楽を届けていきたい」と、世界を見据えた大きな目標を掲げた。

 東響のサウンドのイメージと、これからどんなふうに成長させていきたいかを問われると、先日の就任披露公演で確かな手ごたえを感じた様子。

「集中力の高さ、理解と対応の速さを強く感じました。オーケストラの原動力となるのはコンマスやほかの弦楽器のトップのような指揮者の近くに座っている人をイメージされるかもしれませんが、私はむしろ後ろから強く押してくれる、良い車の後ろについているエンジンのような力が必要だと思っています。東響のサウンドには、そんな馬力を感じることができました。まず私がオーケストラを信頼し、オーケストラも私を信頼してくれている、そういった関係を築いていきたいです」

「あえてコンセプトは掲げない」 独自の美学

 プログラムについては、あえて「特定のテーマやコンセプトは設けない」という。

「コンセプトという言葉は、往々にしてオーケストラを規制し、枠にはめてしまいます。マーラーやベートーヴェン全集のようなプログラムは、私のスタイルではない。コンサートが終わって帰る時に『今まで聴いたことのない音色や緊張感を体験した』と聴衆に感じてほしい」と独自の美学を明かした。

 今シーズンは、ソリストの起用を抑え、オーケストラとの関係性構築に主眼が置かれる。宇宙的なスケールをもつ大作であるフランツ・シュミットのオラトリオ「7つの封印の書」への挑戦(ヴィオッティ自身、学生時代にウィーンでアーノンクール指揮のもと合唱団の一員として歌った経験があるという)をはじめ、ブラームスとドヴォルザーク、モーツァルトとシューベルト、バッハとショスタコーヴィチなど、一見つながりのなさそうな作曲家の間に共通の音楽性を見出す多様なアプローチを展開していく予定。

 オランダ国立歌劇場首席指揮者の経験を持ち、2028年にはチューリヒ歌劇場音楽監督への就任も決まっているが、オペラハウス以外でのオペラ上演は現実的ではないと語る。

「コンサート形式でオーケストラが興味を持つものを取り上げる可能性はありますが、メインはやはりシンフォニックな作品。そのなかにオラトリオなど声楽的なものを織り込むことは十分にあります」

 186センチという長身でスタイリッシュなファッションでも目を引くヴィオッティだが、ステージ衣装については「有名ブランドだからではなく、動きやすさと、聴衆や歴史に対する敬意、エレガンスを最優先しています」と語る一方で、「リハーサルの時はパジャマのようなTシャツですが」と笑いを誘った。

 創立80周年という歴史を刻むと同時に、若く才能あふれるリーダーを迎えた東京交響楽団。両者の織りなす伝統と革新の化学反応が、舞台上でどのような形で表現されていくのか、彼らのこれからに期待が高まる会見となった。

写真・文:編集部

ロレンツォ・ヴィオッティ(指揮) 東京交響楽団 今後の注目公演

第105回 川崎定期演奏会
2026.5/23(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
特別演奏会《ロレンツォ・ヴィオッティ 音楽監督就任披露》
5/24(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
出演/マリーナ・レベカ(ソプラノ)、東響コーラス(合唱) 
曲目/R.シュトラウス:4つの最後の歌、ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」

第743回 定期演奏会
7/18(土)18:00 サントリーホール
第147回 新潟定期演奏会
7/19(日)17:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
曲目/ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 op.90、ドヴォルザーク:交響曲第7番 ニ短調 op.70

第745回 定期演奏会《東京交響楽団創立80周年記念》
9/19(土)18:00 サントリーホール
フランツ・シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」
9/21(月・祝)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
出演/マキシミリアン・シュミット(テノール/ヨハネ)、フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ(バス/神の声)、クリスティーナ・ランツハマー(ソプラノ)、カトリオーナ・モリソン(メゾソプラノ)、パトリック・グラール(テノール)、クレシミル・ストラジャナッツ(バスバリトン)、大木麻理(オルガン)、東響コーラス(合唱)
曲目/シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」(ドイツ語上演/日本語字幕付き)

問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp
ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200 (9/21)
https://muza.pia.jp

※全公演情報は、東京交響楽団ウェブサイトにてご確認ください。