INTERVIEW イェルク・ヴィトマン 
〈コンポージアム2026〉でみせる作曲家としての射程

Jörg Widmann
作曲、指揮、2026年度武満徹作曲賞審査員

 7月上旬、半年間の設備改修を経た東京オペラシティ コンサートホールで、名物企画の「コンポージアム」が開催される。一人の作曲家が審査する作曲コンクール「武満徹作曲賞」を軸に、その審査員の音楽世界も紹介する同時代音楽企画だ。今年の審査員はドイツのイェルク・ヴィトマン。作曲家としてのみならず、クラリネット奏者・指揮者とマルチに活動するヴィトマンに、彼自身が指揮する自作の演奏会の演目について聞いた。

 「今回のコンサートでは、個展ということで、作曲家としての多彩な面をお見せできればと思いました。そもそも私の作品はそれぞれ違っていて、複数の曲を聴いた人から、同じ作曲家の作品とは思えない、と言われることもあります。和声の語法、縦の進行へのこだわりなど、共通した要素もありますが、今回選んだ3作は、曲想の点ではこれ以上ないほどかけ離れています」

 「アルモニカ」は2006年に国際モーツァルテウム財団の委嘱で書かれたグラスハーモニカとオーケストラのための作品。「曲全体がグラスハーモニカのひとつの音のように聞こえるように作曲しました」と明かす。

 「この曲の初演は決して忘れません。オーケストラの温かみのあるサウンド、そして指揮のブーレーズの分析的な思考。ウィーン・フィルのために初めて作曲した曲で、その後も彼らは私の曲をいくつも演奏してくれています。曲の準備段階で、今回も演奏してくれるグラスハーモニカ奏者のクリスタ・シェーンフェルディンガーと初めてお会いしたのですが、彼女がモーツァルトの『アダージョ』を弾いてくれたとき、私の人生において初めて、曲がどう響くべきかがはっきりと頭に浮かんだのでした。一つの音がどこで終わって次の音がどこから始まるかがわからないように音をブレンドさせるというアイディアを、オーケストラにおいて極限まで突き詰めたのです」

 続いて演奏されるのは、ヴィトマンが「自分が作曲したなかでもっとも速い曲」と言う「アド・アブスルダム(不条理)」。こちらの曲のインスピレーションとなったのは、本公演でもソロを務める稀代のヴィルトゥオーゾ・トランペッター、セルゲイ・ナカリャコフだ。

 「ダブル・タンギングと循環呼吸を同時にできる彼の驚異的な能力がなければこの曲は生まれなかったでしょう。トランペットは最初からずっと急速な16分音符を演奏し、しかも最初の3分ほどは息継ぎをしません。そしてオーケストラにおいても、フルート、バスクラリネット、コントラファゴットなどが次々と16分音符を演奏するクレイジーな曲です。最後はナカリャコフよりもさらに速く演奏できる機械じかけの楽器を登場させたいと思い、手回しオルガンを登場させました。するとトランペットはトリプル・タンギングで応酬するのです! その意味で、この曲でも一つの極限を追求したといえます」

 一方、日本初演となる「バビロン組曲」は、2012年にバイエルン国立歌劇場で初演された自身のオペラ《バビロン》を、30分ほどの管弦楽曲に仕立てたもの。オペラは、聖書にも言及される古代バビロニアの多文化・多言語社会を、歌手20人、オーケストラ75人、合唱100人の壮麗な編成で描いた野心作だ。こうした古代の文化についての作品を書くことは過去を振り返ることだけではなく、現代を照らし出すものであり、未来的でさえある、と話す。

 「とにかく規模の大きなオペラでしたので、組曲に再構成するには苦労しました。最終的にはオペラの音楽のみを使いつつ、ストーリーは再現せず、曲そのものがドラマを作り出してくれました。歌声なしでもオペラのエッセンスをみなさんにお届けできたらと願っています」

 最後に、「武満徹作曲賞」については、作曲コンクールでの審査の経験はあるが、単独審査は初めてで、責任の重さを感じていると話す。この百戦錬磨の作曲家が果たしてどんな若手作曲家の作品に注目したのか? 入場無料のトークセッション(7/8)、ヴィトマン個展演奏会(7/9)とあわせて、武満徹作曲賞本選演奏会(7/12)にも足を運びたい。

取材・文:後藤菜穂子
(ぶらあぼ2026年6月号より)

東京オペラシティの同時代音楽企画 〈コンポージアム2026〉
イェルク・ヴィトマンを迎えて

イェルク・ヴィトマン トークセッション
2026.7/8(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

出演/イェルク・ヴィトマン、長木誠司(聞き手) ※ドイツ語通訳あり

イェルク・ヴィトマンの音楽
7/9(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

出演/イェルク・ヴィトマン(指揮)、クリスタ・シェーンフェルディンガー(グラスハーモニカ)、セルゲイ・ナカリャコフ(トランペット)、東京都交響楽団

2026年度 武満徹作曲賞本選演奏会 審査員:イェルク・ヴィトマン
7/12(日)15:00 東京オペラシティ コンサートホール

出演/杉山洋一(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団

問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp