
『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。
[以下、ぶらあぼ2026年5月号海外公演情報ページ掲載の情報です]
曽雌裕一 編
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●【8月の注目公演】(通常公演分)
今年も8月中の通常公演は多くはないが、シュターツカペレ・ドレスデンのシーズン最初の演奏会がガッティ指揮のマーラー交響曲第6番というのは聴きものかもしれない。また、いつも通り、ベルリン・フィルの新シーズン開幕公演が8月最終週あたりにあるはずだが、2026/27シーズンの詳細予定は4月28日(火)の日本時間19時に発表されることがアナウンスされている。開幕公演直後の音楽祭ツアー(ルツェルンやエディンバラ)で一部発表されている予定から推測するに、今年の開幕公演の曲目は、エルガーの「エニグマ変奏曲」とチャイコフスキーの交響曲第4番で間違いないだろう。
●【夏の音楽祭】(8月分)
〔Ⅰ〕オーストリア
今年はまず「インスブルック古楽音楽祭」から。正式な音楽祭として組織化された1976年から今年で50周年となるこの音楽祭。その目玉は、チェスティのオペラ「金の林檎」の復活再上演に尽きる。このオペラ、何と全5幕・67場にわたる長大な構成で、演奏時間はカットなしで約10時間にも及ぶというとんでもない作品。しかも、長らく第3幕と第5幕の音楽が欠落していたが、近年の研究者の努力によって復元の試みが進み、その成果を踏まえて、音楽監督オッタヴィオ・ダントーネが再構成を行った結果が、今回、現代に「蘇演」されることになったという次第。このような破格の作品のため、今回も全体を2部に分けて、2日間で全曲を上演する計画となっている。
もちろんこの上演以外にも、世界最古級の歴史的パイプオルガンの演奏、伝説のスウェーデン女王クリスティーナの生涯や生誕300年を迎えるイギリスの音楽史家バーニーの音楽旅行を巡る演目など、各公演に明確なメッセージが感じられる。歴代音楽監督のヤーコプスやデ・マルキも指揮台にのぼる。
「ザルツブルク音楽祭」では、まずはマキシム・パスカルがウィーン・フィルを指揮して上演するメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」が大変楽しみだ。とにかく、夏のザルツブルク音楽祭でウィーン・フィルの演奏する近現代作品は抜群に充実度の高い公演が多い。これは、普段のウィーンでの公演とは別に、ザルツブルク用に徹底したリハーサルが行われることも要因にあるのだろうが、その意味では、手慣れた作品であるはずのR.シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」やモーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」も素晴らしいに違いない。オーケストラでは、ムーティがウィーン・フィルを振ってのヴェルディ「レクイエム」、ヘンゲルブロック指揮のモーツァルトの「ハ短調ミサ」、ポペルカ指揮のモーツァルト・マチネーなど相変わらず多彩な内容が続く。室内楽・器楽分野でも、エマールのピアノによるメシアン「鳥のカタログ」、イザベル・ファウストによるバッハのヴァイオリン・ソナタ集、R.カプソンらによるメシアン「世の終わりのための四重奏曲」等々、ファンにとってはたまらない演目が並んでいる。
「シューベルティアーデ」は室内楽・声楽中心の音楽祭として常に魅力横溢。「ブレゲンツ音楽祭」では、毎年、時代を先取りするような超現代的プログラムが組まれことが多いが、今年は「拡張現実(XR)」コンセプトを謳う作品が登場する。何とも想像の範囲では語れない。 「グラーフェネック音楽祭」ではオペラ上演はほとんど行われないが、今年は、コルンゴルト「死の都」が、演奏会形式とはいえ、ここで上演されるのが異色で興味深い。
〔Ⅱ〕ドイツ
先月号でも言及したとおり、今年の「バイロイト音楽祭」の注目点は、久々「リング」ツィクルスにティーレマンが登場することと、その「演出」が「演出」ではなく「キュレーション」であること。過去の膨大な舞台データなどを読み込んだAIの生成するイメージや材料をキュレーターが整理して上演に反映させるというのだが、今ひとつ眉つば的なところもあって想像がつかない。それに加えて、本来ワーグナーがこの劇場での上演を想定していなかった「リエンツィ」が初めて上演されることは、英断であるのか暴挙であるのか。総監督のカタリーナ・ワーグナーは、①ワーグナーが生きていたら、彼の流動的な性格から「リエンツィ」も上演演目に追加したに違いない、②「リエンツィ」が「さまよえるオランダ人」以降に、作曲家自身によって改訂を施され、「最終決定版」が作られていたら、やはり上演演目となっていたはずだ、と述べ、上演作品を限定しているのはワーグナー自身の正式な遺言ではない、という立場をとっているようだが、さて、うるさ型ワグネリアンはどんな評価を下すのか。
「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」では、ストックホルムに焦点を当て、同国を代表するポップ・グループABBAの楽曲を、古楽器アンサンブルのラウテン・カンパニー・ベルリンが演奏するというエッジの効いた(?)プログラムもある。
バルト海に面するドイツ北方の地域で開催される「メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭」では、ヴィオラのメンケマイヤーが室内アンサンブルで大活躍。「ラインガウ音楽祭」では、ベルリン・フィルの首席オーボエ奏者アルブレヒト・マイヤーが指揮者として登場する。今回は楽器を吹きながらの指揮のようだが、とかくオーボエ奏者は指揮者に憧れがちなので、あるいは第2の人生の布石かも。
〔Ⅲ〕スイス
スイス随一の夏の定番イベントである「ルツェルン音楽祭」。今年も8月中から、シャイー、マケラ、バレンボイム、フルシャ、ペトレンコ、ネゼ=セガン、シャニなどの有名人気指揮者が勢揃い。ソリストとしてはヨーヨー・マやアルゲリッチも登場するほか、ヴァイオリンのアンネ=ゾフィー・ムターのルツェルン・ステージデビュー50周年記念の演奏会もある。ということは13歳で同音楽祭デビューということになるが、奇しくも昨年、ベルリン・フィルの演奏会にデビューしたHIMARIも当時の年齢は13歳!! 「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」では、今や時代の寵児となりつつある日本の角野隼斗がソロ・リサイタルを開く。「ヴェルビエ音楽祭」では、ソプラノのルネ・フレミングが、映像と自身の歌声を融合させた没入型プログラムというのがあるのだが、これは一体何をするのだろうか。近年は、予想もつかない映像プログラムが攻勢を極めている。
〔Ⅳ〕イタリア
開催期間としては7月中になるが、ローマ歌劇場の夏の恒例企画である「カラカラ・フェスティバル」は同浴場跡の修復工事に伴い、今年は会場が「チルコ・マッシモ」(古代ローマ時代最大の戦車競技場跡)に変更されている。観劇を計画されている方はご注意のほど。
このカラカラ・フェスティバルも、同じ野外イベントの「ヴェローナ野外音楽祭」や「マチェラータ・オペラ・フェスティバル」も、オペラ以外の公演は、皆、オルフの「カルミナ・ブラーナ」。やはり、野外ステージでオペラ以外に大合唱で盛り上がる演目と言えば、この曲にまず白羽の矢が立つのであろうか。
「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」では、今年も「コリントの包囲」、「なりゆき泥棒」など、他では聴く機会の少なそうなロッシーニ作品が選ばれている。また、「絹のはしご」も、序曲ばかりがやたらに有名だが、全曲の上演に接する機会はそうはないだろう。同じく珍品オペラを指向する「マルティナ・フランカ音楽祭」は、今年はカゼッラの「オルフェオの伝説」を採り上げる。カゼッラを古楽の作曲家と勘違いする人もいるが、彼は日本式にいうと、明治の始めの生まれで、20世紀前半に活躍した作曲家。創作したオペラ3作の中ではこの曲が最も有名と言われている。
〔Ⅴ〕フランス・〔Ⅵ〕ベネルクス
フランスでは、ピアノ専門の音楽祭として有名な「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル」、ベルギーでは、古楽系の「アントワープ・フランドル古楽祭(AMUZ)」の連日の出演者がどの日も魅力的。古楽の音楽祭は世界中でまだまだ多数存在するが、その一つでもあるオランダの「ユトレヒト古楽祭」は5月6日に詳細発表の予定。
〔Ⅶ〕イギリス
イギリスの「プロムス」は次号で紹介。「エディンバラ国際フェスティバル」では、オーケストラや室内楽に混じって、オペラ上演が4つもあるのがポイント。また、ジャズ・ピアニストの小曽根真がチェロのカネー=メイソンらと共に室内アンサンブルの一員として招かれているのも興味深い。
〔Ⅷ〕北欧
スウェーデン「ドロットニングホルム宮廷劇場」は、1766年に建設されたバロック劇場そのものを実体験できる重要な存在。今年は、例年とは異なり、モンテヴェルディの「ポッペアの戴冠」という人気有名作がチョイスされた。
(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)

