
取材・文:高坂はる香 写真:編集部
Solistiadeでは2024年から定期的に、会員を対象にJNOのメンバーがマンツーマンレッスンをする人気の企画が行われています。
その2026年最初の回に、反田恭平さんが登場。午前11時半から18時半まで、熱心に耳を傾ける聴講の方々の前で、予定時間をオーバーしながらの熱いレッスンが行われました。
受講生は、応募者の中から選考に通過した、音楽の道を目指す8名の若者。その中からさらに、4月にサントリーホールで行われる演奏会で、JNOメンバーと共演できるというプレゼント付き。
反田さんのレッスンの様子でまず印象的だったのは、小学生に説明するときの例えのうまさ、おもしろさ。
タッチの感覚を説明するときは、「バレーボールを掴むような感じで鍵盤をひっかける」
徐々にはっきりと音量をあげていく表現を説明したいときは、「朝、目が覚めて、パッとすぐに起き上がらないでしょう? 少しずつちゃんと目が覚めていって、ゆっくり動き出す感覚」
音を抑えひっそりとした表現について伝えるときは、「学校で、あの子の体操着出ててかっこよくないねってヒソヒソ言う時、大きい声で言わないでしょう?」「まだまだ、それだと隣の子に聞こえてる!」
というように、想像しやすい場面を提示しながら伝えていきます。

一方で子供でももちろん、音楽を表現するうえで本質的に大切なこと、
「指が弾いてしまっているように見える。自分の意思で弾かないといけない」
「自分がここの部分が好きだということが伝わるように弾けると良い」
「ヨーロッパだとその弾き方は嫌われてしまう」
「ピアノは音が簡単に出てしまうけれど、ちゃんと弾くにはとても頭を使わないといけない」
などのアドバイスも、しっかりと伝えられていました。

一方で、中学、高校、大学生の受講生になると、
「速く弾くことでお客さんに届かなくなるなら、むしろゆっくり弾くほうが良い」
「ぺダルを踏む意味を自分の中で一度整理して」
「長い作品でも、この人はおもしろそうだと思ってもらえるか、もしくはここから20分聴いたらつまらないかも…と思われてしまうかは、最初の3段くらいで決まってしまう」
「頭の中にあるものを表現していることは伝わってくるから、もっと自信をもって!」
など、届けたいものをちゃんと伝えるために大切なことがより具体的にアドバイスされていきました。
また、ピアノのレッスン中心のなか、音大附属高校でサクソフォンを学ぶ受講生も。反田さんは自らピアノパートを演奏し、受講生に何度も繰り返し吹いてみることを促しながら、さまざまなフレーズのより良い表現を探していきます。
そして「一つの音階の表現も、こだわりをもって何回も確かめていくことが強みになる」ということを伝えていました。
自らの仲間と結成したオーケストラを持ち、指揮者としても活動の幅を広げる反田さんは、「自分のオーケストラの奏者が相手だったら僕はもっと細かい」と話していましたが、実際、普段反田さんがリハーサルや練習で奏者たちと交わしているコミュニケーションの一部を垣間見られるような場面でもありました。
反田恭平さんに聞く——今回のレッスンを振り返って

—レッスンの手応えはいかがでしたか?
今日の受講生には、初めての子もいたし、数年ぶりの子もいました。定期的にレッスンができれば良いですがなかなかそうもいかないので、普段師事されている先生の指導を尊重しつつ、何とか変化をもたらすようなことを伝えられたらと考えながらやっています。そうするとなかなか時間が足りなくて!
—小学生から大学生まで幅広い年齢層の受講生が集まりました。
大学生の指導は、すでにご本人の引き出しが増えている状態だし、ちょっとしたニュアンスもすぐ伝わるので楽ですが、子供の指導にはまた別の工夫が必要です。
でも最近、うちの子にドレミファの位置を教えるようになったことで、前よりは子供に教えることにも慣れてきたような気はしています(笑)。
—優れた技術と音楽性を持つ小学生も増えていますが、才能を伸ばすため、そういう生徒を持つ指導者のみなさんと共有しておきたい考え方はありますか?
厳しい話になるかもしれませんが、先生のキャパより生徒のキャパが超えそうになったらすぐ手放してほしい、ということですね。自分が育てるんだとがんじがらめにすることが成長の妨げになるケースは珍しくありません。
ペットボトルの水も一番上までギリギリ入っているのでなく、少し余白がありますけど、あのくらいの状態で次の先生に渡すことが生徒のためには一番いいのではないかと思います。
—ピアノ以外のレッスンもありましたが、そういうときには指揮の経験が活かされますか?
そうですね。ただ僕は高校生の頃から別の楽器の同級生や先輩に“聴いて”と頼まれて、その延長線上でアドバイスをすることがよくありましたし、今も指揮台の上から同じようなことをしているので、あまり違和感なくレッスンしています。
もちろんその楽器の専門家ではありませんから、技術的なことなどは適切でない言い方になることもあるかもしれませんが、思ったことを素直に言うようにしています。
今日受講していたサックスの子は、例えがわかりやすくて具体的に音で何を表現しなくてはいけないかイメージが湧きやすかったと言ってくれました。
—このレッスン企画の今後に期待することはありますか?
自分が学生の頃は、第一線で活動している方の意見をダイレクトに聞きたいとよく感じていたことを思い出します。
高校生の時にダン・タイ・ソンさんからモーツァルトの指導を受けて、教えてもらった運指で音楽がこんなに変わるんだと知りました。やはりステージで弾いている方ならではのアドバイスでした。韓国のカン・チュンモさんからベートーヴェンのピアノソナタ7番のレッスンを受けたときも、これはこんなに楽しい曲だったのかと気づかせてもらいました。
もちろん師事していた先生方からの教えも大きいですが、それとは少し違った形でとてもよく覚えているものなんです。
この企画は、普段コンサートを聴いている、しかも世代もわりと近いアーティストのアドバイスやレッスンを聞ける珍しい機会です。
Solistiadeには、打楽器以外、オーケストラ全ての楽器の奏者がいますから、どんな楽器でも、また別の楽器の奏者からもレッスンを受けられます。たくさんいるアーティストの中から、自分がシンパシーを感じる音楽家に習うという学び方もおすすめしたいですね。
Solistiade
https://fan.pia.jp/solistiade

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/

