室内楽でこそ見えてくる協奏曲の本質
――近藤嘉宏がレグルス・クァルテットらと挑む、ショパンとブラームス

©De Uschi

 2025年にデビュー30周年を迎え、さらに円熟味を増すピアニスト近藤嘉宏が、3月にHakuju Hall主催の「室内楽ホールで聴く、ブラームスとショパンのピアノ協奏曲」に出演し、両第1番を演奏する。この“室内楽ホールで協奏曲”に彼の問題意識や意欲が端的に示されている。

 「音楽は19世紀末以来、小さい空間から大ホールでエンターテインメント的に楽しむという流れで来ていますが、その分表現の細部が薄まりがちになり、ロマン派以降の協奏曲でオーケストラに負けないように弾くと、音楽の細かい構造が見えにくくなる。実は19世紀前半まではサロンを中心に、コンチェルトも室内楽版で演奏することが多かった。僕はショパンの協奏曲の室内楽版を2000年代初めから演奏してきましたが、小編成の方が音楽の形式美、楽器間の掛け合い、親密なやりとりなどショパンのディテールが全部わかり、とても濃い楽曲になると思います」

 近藤の長年の室内楽版への取り組みもあり、現在はショパンの室内楽版の演奏機会も多くなっているが、ブラームスはやはり珍しい。その機会は意外な形で訪れた。

 「2018年に、動画で僕の弾く室内楽を観たイタリアの作曲家パオロ・カンパニーニさんから、彼の編曲したコンチェルト室内楽版を弾いてくれないかと突然メッセージが来たんです。何曲もある中で最も興味をひいたのはブラームスの第1番でした。弦楽器5人との六重奏で、指揮者の平井秀明さんと変更すべき点を校訂して、昨年演奏することができました」

 ブラームスの第1協奏曲はそれこそソロが力業になりやすく、室内楽版でやる意義は大きいと熱く語る近藤は、今度の共演者であるレグルス・クァルテットと森田麻友美(コントラバス)との出会いも喜んでいる。

 「共演するレグルス・クァルテットの実演を聴かせていただきましたが、本当にすばらしかった。ブラームスの若い時期の溢れ出すエネルギーは、アンサンブルの精度や密度も要求されますが、彼らであれば理想的で本当に楽しみです。この編成ならピアノ六重奏曲として、オケだけの場面は弦楽五重奏曲として、ブラームスの新たな室内楽曲のように楽しめるところも多く、満足度も高いと思います」

 協奏曲の新たな魅力が見えてくる一夜。「大ホール的な音楽だったコンチェルトが、サロンに回帰することで細かい部分をよりディープに聴けるようになり、感情の襞や内的な部分につながります。なかなか攻めた企画で、ここでしか聴けません!」という近藤の意気込み、この場でこそ体験したい。

取材・文:林 昌英

(ぶらあぼ2026年3月号より)

近藤嘉宏&レグルス・クァルテット
「室内楽ホールで聴く、ブラームスとショパンのピアノ協奏曲」
2026.3/10(火)19:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://hakujuhall.jp


林 昌英 Masahide Hayashi

出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。


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