
2018年からミューザ川崎シンフォニーホールオルガニストを務め、今年3月で8年間の任期を終える大木麻理によるオール・バッハ・プログラムのCDがリリースされた。同ホールのオルガン単独演奏のみによる画期的なCDの製作に込めた思いを聞いた。
「オーケストラを聴きにミューザにいらした方は多いと思うのですが、普段あまりオルガン音楽を聴かない人にも『あ、この曲知っている』と思って聴いていただきたくて、バッハの音楽をまとめたCDにしました」と大木が語る通り、「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」、「フーガ ト短調(小フーガ) BWV578」など、誰もが耳にしたことがあるであろう名曲が並ぶ。その一方で、低音主題を反復しつつバッハの壮大なファンタジーを自在に展開させた「パッサカリア ハ短調 BWV582」のような大作もじっくり味わえる。
大木の演奏は実に端正な正統派。落ち着いたテンポでしっかりと楽器を鳴らしつつ、コラール旋律は朗々と歌い上げ、趣味よく即興的な装飾も随所に施している。5248本のパイプと71のストップを備え多彩な音色を誇るホールの楽器(スイス、クーン社製)についても教えてもらった。
「まさにスイスの精巧な時計のように理路整然としていて、ある意味『おりこうさん』。でも弾く側にアイディアがないと心を開いてくれないことも分かってきました」
ホール専属オルガニストとして楽器の個性を知り尽くしてきた彼女ならではの魅力的な音色選びも聴きどころの一つだろう。
目下、静岡でバッハのオルガン作品全曲演奏シリーズを進行中の彼女が、「私は自分がバッハ弾きやバロック弾きだと思ったことはないんです」というのは少々意外だった。
「もちろんオルガニストにとってバッハは一生付き合っていくものですが、一人で完結してしまう楽器だからこそ、いろんな方とのアンサンブルも楽しみたいのです」
昨年末にミューザ川崎で20人のトランペット奏者と共演するという前代未聞のクリスマス・コンサートを企画した彼女は、決して枠にとらわれないアイディアの人だ。今回のCDでも、あえてオルガンのオリジナル作品で統一せずに、藝大時代の恩師・廣野嗣雄が教会カンタータをアレンジした思い入れのある一曲を収めた。
「最後にどうしても『主よ、人の望みの喜びよ』をいれたくなって、“本編”のオリジナル作品と区別して『アンコール』としています」
大木自身が評するように「卒業制作」の名にふさわしくオルガンの多彩な魅力が詰まった1枚。ぜひ多くの人に手に取ってもらいたい。
取材・文:近松博郎
(ぶらあぼ2026年3月号より)
MUZAスペシャル・ナイトコンサート
パイプオルガン・スぺシャル~オルガンフルコース~
2026.4/21(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール 044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp
SACD『Spiral Galaxy of Bach』
妙音舎
MYCL-00067
¥3740(税込)




