イギリス合唱界の至宝、「ザ・シックスティーン」が21年ぶりの来日公演

© Johnny Millar

 世に素晴らしい合唱団はいくつもあるが、現代のイギリスの優れた古楽系合唱団には、イギリス的としかいいようのない独特な魅力がある。

 たとえば11月に21年振りに来日するザ・シックスティーン。各パート4人ほどの小振りな編成、ノン・ヴィブラートによるすっきりとした透明なサウンドと明るいハーモニー、カウンターテナーを加えた高声、高度な歌唱技術と知性に裏打ちされた洗練された音楽性と啓発的なプログラム。これらに加えて彼らの演奏には人間的な温かな声と彩り、パッションがある。

 なにしろリーダーのハリー・クリストファーズからしてイギリス的である。ルネサンス時代のイギリスの多くの作曲家と同様、少年時代をカンタベリー大聖堂の聖歌隊員として過ごし、青春時代をオックスフォード大学のカレッジの聖歌隊で歌った。ハリーはここで古楽演奏の先駆者でノン・ヴィブラートによる歌唱やカウンターテナーを最初に合唱に導入した、デイヴィッド・ウルスタンと出逢う。その師のもとでルネサンスの合唱曲の魅力に開眼したハリーは、20代前半で友人たちと16人のメンバーからなるザ・シックスティーンを結成。以来40年余、ロンドンを中心に世界各地で演奏してきた(現在は18人)。レパートリーは彼らの原点であるルネサンスの合唱曲を中心に、同名の器楽アンサンブルとともにバロックから21世紀の音楽まできわめて多岐にわたり、これまでにリリースされたCDは200タイトル以上。数々の音楽賞を受賞するなど、名実ともに欧州を代表する合唱団として音楽界に重きをなしている。

 今回は生誕500年のパレストリーナのモテット〈ソロモンの雅歌〉や〈スターバト・マーテル〉などを軸に、ルネサンスの宗教曲と親和性のあるペルトなどの現代曲を織り交ぜたプログラムだ。来日を前にクリストファーズは、16世紀のローマで数々の宗教音楽を作曲し「祈りの人」と言われるパレストリーナについて、およそこんなことを述べている。「彼こそはあらゆる時代の作曲家が模倣を試みてきた名匠。完璧な職人技ゆえにアカデミックな印象をもたれることもありますが、私たちは彼の作品における音楽の真の起伏を表現しようと努めてきました。自分たちの呼吸を彼の音楽の一部とし、音楽を息づかせ、歌詞の真の意味を伝えたい。とりわけ〈ソロモンの雅歌〉は言葉の絵画的表現に満ちています。こうした作品の詩情に敏感になり、エネルギーと美を吹き込みたい。私たちの演奏が、音楽世界の輝かしい光であるパレストリーナへの敬意の表明となることを願っています」。今年生誕90年を迎えるペルトの〈主よ、平和を与えたまえ〉も聴きどころだ。

 秋のひと時、ザ・シックスティーンの歌う透明な詩情あふれるパレストリーナとペルトらの合唱曲が、私たちの心に温かな光を灯してくれることだろう。

文:那須田 務

(ぶらあぼ2025年11月号より)

ザ・シックスティーン ハリー・クリストファーズ指揮
2025.11/20(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp

他公演
2025.11/22(土) 相模女子大学グリーンホール(神奈川県民ホール045-662-5901)
11/23(日・祝) 京都/青山音楽記念館バロックザール(075-393-0011)
11/24(月・休) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)