舘野泉 卒寿記念コンサート
飽くなき情熱、微笑みとともに

©Akira Muto

 数え年で90歳を迎えた舘野泉(1936年11月生まれ)の卒寿記念コンサート。60代半ばに病で半身麻痺となりながらも、「左手のピアニスト」として復帰した不屈の精神には、ただ敬服するばかりだ。だが音楽ファンは、彼がそれ以前から日本を代表するピアニストとして揺るぎない歩みを重ねてきたことも忘れていない。北欧の自然を思わせる深く透明な響きと孤高の抒情は唯一無二。だからこそ、国内外の作曲家たちが次々と彼のために左手の作品を寄せ続けてきた。その数はいまや130曲を超えている。今回の演奏曲もすべて舘野のために書かれた作品だ。

 アイスランドの作曲家マグヌッソンの「アイスランドの風景」(2013)。舘野が“親友”と呼ぶノルドグレンの「小泉八雲の『怪談』によるバラードII」(2004)。同じくフィンランドの作曲家ティエンスーの「復活」(2013)。フィンランドは舘野にとって第二の母国であり、彼の人生に深く根を下ろした場所である。

 そして舘野のために最も多くの作品を手がけている作曲家の一人、パブロ・エスカンデの「奔放なカプリッチョ」(2023)。ピアノと7本の管楽器のための室内楽作品だ。近年の舘野のコンサートではしばしば室内楽が組み込まれている。そのアンサンブルからはいつも、奏者たちと老巨匠とのあいだの確かな共感と信頼が、目に見えるように立ちのぼってきて胸を衝く。その底流にあるのは、舘野泉という人の大きな「人間力」にほかならない。

文:宮本 明

(ぶらあぼ2025年11月号より)

舘野 泉 ピアノ・リサイタル 卒寿記念コンサート
2025.11/2(日)14:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp