国際古楽コンクール「山梨」がイタリアのタクトゥス・レーベルと共同企画を立ち上げ、これはその第一弾。第34回の旋律楽器部門で最高位(第2位)を受賞した大井絵理子による、カルロ・テッサリーニ(1690頃〜1767以降)のフルート作品集である。共演はフー・トンハンのハープシコード。まだ知名度の低い作曲家だが、ソナタはバロックから古典派への移行期に書かれた佳品揃い。明るく伸びやかな作風に、大井のトラヴェルソが見事な楽器のコントロールによって細やかな陰影を与えてゆくのが快い。小品集「貴婦人の歓び」はロマン派のサロン風小品を予感させる。未知の作品の再評価を促す秀演だ。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年11月号より)
【information】
CD『テッサリーニ:フルート作品集/大井絵理子』
テッサリーニ:6つのソナタ op.14、貴婦人の歓び
大井絵理子(フラウト・トラヴェルソ)
フー・トンハン(ハープシコード)
TACTUS/東京エムプラス
TC 692006S ¥オープン価格

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。

