寺田悦子&渡邉規久雄 デュオ・ピアノ
四手連弾でめぐる東西の響きの妙

 長年にわたり深い信頼関係で結ばれているピアニスト、寺田悦子と渡邉規久雄による「四手連弾の宇宙」第5弾が開催される。2020年のコロナ禍に始まったこのシリーズは、これまでベートーヴェン、シューベルト、ブラームスなどの傑作を取り上げ、毎回好評を博してきた。「2人で1つの響きを作る連弾は、ソロとも2台ピアノとも異なる魅力がある」と寺田は語る。

寺田 「身体的な特徴の異なる2人の奏者が、統一感のある響きを作り上げていくのは簡単ではありません。実は2台ピアノの方が、それぞれの自由度は高く、なおかつ音楽としてまとまりやすいのです。一方、連弾はより繊細に響き合わせていく必要があります。ただし、ソロのように聞こえてしまっては面白くありません。プリモとセコンドの独立性や個性を保ちながら、お互いに触発し合い、豊かな音色の広がりを生む——そこに連弾ならではの魅力があるのです」

 コンサートは2人の上質な音色が掛け合わされるポリフォニーで幕を開ける。レーガーが連弾用に編曲したバッハの管弦楽組曲第1番「序曲」は、複雑なフーガが聴きどころだ。続くプログラムのテーマは「時空を超えて」。ソロも交えながら、作曲家たちの異国への憧れが綴られる。

渡邉 「シューマンの曲集『子供の情景』は、彼の頭の中にあった遠い場所への憧れが表現されています。『見知らぬ国』や『不思議なお話』といったタイトルからもそれが窺えますね。そこから、連弾用に書かれた6曲からなる『東洋の絵』につなげていきます。アラビアの叙事散文集に触発されたシューマンが、“東洋らしさ”を当時どのように感じていたのかが伝わります」

寺田 「後半のドビュッシー作品も、彼の異国情緒を反映しています。ソロは東洋美術に触発された『金色の魚』や、前奏曲の『西風の見たもの』を取り上げます。おそらくフランス人にとって、明るく春のイメージのある“東”と、大陸からの嵐をもたらす“西”では、違ったイメージを持っていたのではないでしょうか。続く連弾版の交響詩『海』は、ドビュッシー自身がオーケストラ譜と同時進行で書き進めたもので、管弦楽的な響きとピアノ音楽としての魅力の両方を感じていただきたいですね」

 締めくくりは坂本龍一の「東風」である。

寺田 「坂本さんは10代の頃ドビュッシーの音楽を聴いて音楽家になろうと思ったそうです。繊細な感性を持つ坂本さん自身の演奏を聴き、この曲を取り上げたいと思いました」

 まさに「時空を超え」た東西の豊かな響きが四手を通じて交錯する、素敵な夜になりそうだ。

取材・文:飯田有抄

(ぶらあぼ2025年10月号より)

四手連弾の宇宙Ⅴ~時空を超えて~ 寺田悦子 & 渡邉規久雄 デュオ・ピアノ
2025.11/21(金)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp


飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)

音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。