アコーディオン+パーカッション×2、唯一無二の三重奏「トリオ・カデム」も登場
2024年にスタートした東京文化会館の新しい音楽祭「フェスティヴァル・ランタンポレル」。2回目の開催となる今年、スポットが当てられる作曲家のひとりがマルティン・マタロンである。

マルティン・マタロンは1958年、ブエノスアイレス生まれ。アメリカで作曲を学んだのち、パリへと移り住み、1990年代からフランスを拠点に国際的な創作活動を展開してきた。IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)の委嘱により1995年にスタートした無声映画のための作曲は、マタロンのライフワークと言うべきもので、これまでにフリッツ・ラング、ルイス・ブニュエル、エルンスト・ルビッチ、バスター・キートンなど、数多くの名監督たちの作品に音楽を書いてきた。今回、「フェスティヴァル・ランタンポレル」で取り上げられる「チャップリン・ファクトリー」(11/14)も、チャーリー・チャップリンの『放浪者』『舞台裏』『移民』をアコーディオン、打楽器、エレクトロニクス、ソプラノ、クラリネット、チェロ、トロンボーンで彩るマタロンの代表作のひとつである。

マタロンは、「映画音楽」と「シネ・コンセール(シネマ・コンサート)」は全く別のもので、後者はあくまでコンサートであり、そこでは音楽が主体であると強調する。コンピュータを用いて楽器、エレクトロニクスと映像を完全にシンクロさせ、音楽を映像と聴衆の接続点として機能させながら、そこに新しいイリュージョンを生み出すことは、彼が「シネ・コンセール」の仕事で一貫して目指してきたことだ。「チャップリン・ファクトリー」は、そうしたマタロンの音楽美学に接するまたとない機会となるだろう。

11月15日には、「チャップリン・ファクトリー」で演奏を担うTrio K/D/M(トリオ・カデム)の室内楽公演も開催され、マタロンが彼らのために作曲した「KDMフラグメンツ」のほか、アンヌ・カステックス、マノン・ルポーヴルらマタロンの薫陶を受けた新世代の作曲家たちや、ヨーロッパで高い評価を得る岸野末利加の作品が取り上げられる。アコーディオン奏者のアントニー・ミエ、そしてふたりの打楽器奏者、エミル・クイヨムクイヤンとギ・フリッシュからなるTrio K/D/Mは、ユニークな編成から生み出される研ぎ澄まされたサウンドで国際的な注目を集めるアンサンブルだ。音楽祭のプロデュースを手掛ける同館音楽監督、野平一郎がコンテンポラリー・ミュージックにさらなる広がりをもたらす存在だと期待を寄せるTrio K/D/Mの演奏にも大いに注目したい。

文:八木宏之
【Information】
フェスティヴァル・ランタンポレル
2025.11/13(木)~11/17(月) 東京文化会館(小)
IRCAMシネマ「チャップリン・ファクトリー」
~現代音楽と無声映画のコラボレーション~
11/14(金) 19:00
◯上映映画
『放浪者』(1916年)、『舞台裏』(1916年)、『移民』(1917年)
監督:チャーリー・チャップリン
出演:チャーリー・チャップリン 他
◯出演
作曲・指揮:マルティン・マタロン(2024年IRCAM-Centre Pompidou, the Compagnie Cadéëm, the Centre Henri Pousseur委嘱作品)
出演:
Trio K/D/M(トリオ・カデム)
アコーディオン:アントニー・ミエ
パーカッション:エミル・クイヨムクイヤン、ギ・フリッシュ
ソプラノ:砂田愛梨 *第22回東京音楽コンクール声楽部門第2位
クラリネット:西川智也 *第9回木管部門第1位
チェロ:髙木慶太
トロンボーン:髙瀨新太郎 *第16回金管部門第2位
IRCAMエレクトロニクス:ディオニジオス・パパニコラウ
IRCAMサウンド・ディフュージョン:シルヴァン・カダー
プラチナ・シリーズ第3回 Trio K/D/M(トリオ・カデム)
~アコーディオン&パーカッションアンサンブル~
11/15(土) 18:00
◯出演
Trio K/D/M(トリオ・カデム)
アコーディオン:アントニー・ミエ
パーカッション:エミル・クイヨムクイヤン、ギ・フリッシュ
IRCAMエレクトロニクス:ディオニジオス・パパニコラウ
IRCAMサウンド・ディフュージョン:シルヴァン・カダー
◯曲目
岸野末利加:レーベンスフンケ 大太鼓とエレクトロニクスのための
マルティン・マタロン:痕跡 X アコーディオンとエレクトロニクスのための
アンヌ・カステックス:ボード・ゲーム アコーディオン、2つの打楽器とエレクトロニクスのための(日本初演)
マノン・ルポーヴル:モルフォ アコーディオンと2つの打楽器のための
マルティン・マタロン:KDMフラグメンツ アコーディオンと2つの打楽器とエレクトロニクスのための
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp
※フェスティバルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

八木宏之 Hiroyuki Yagi
青山学院大学文学部史学科芸術史コース卒。愛知県立芸術大学大学院音楽研究科博士前期課程(修士:音楽学)およびソルボンヌ大学音楽専門職修士課程(Master 2 Professionnel Médiation de la Musique)修了。
2021年春にWebメディア『FREUDE』を立ち上げ。クラシック音楽を中心にプログラムノートやライナーノーツ、レビュー、エッセイを多数執筆するほか、アーティストへのインタビュー、コンサートのプレトーク、講演会なども積極的に行なっている。
https://freudemedia.com


