
中国4大都市の一つ、広東省の深圳市を本拠とする中国深セン交響楽団が、11月に東京と京都で初来日公演を行う。指揮は、2016年から音楽監督兼首席指揮者をつとめる林大葉(リン・ダーイエ)。1980年生まれで、2012年のショルティ国際指揮者コンクールで第1位を獲得した実力者だ。
深セン響は深圳の発展とともに成長し、成果を収めてきたオーケストラだと、林は語る。
「その姿はまさに深圳という街の気質——『開放』『革新』『活力』を反映しており、高い技術力と若々しさを併せ持つ演奏家が集っています。古典に深く根ざしながら、現代作品にも積極的に挑み、とりわけ中国人作曲家の新作にも意欲的に取り組んでいます。確かな技術に裏打ちされた演奏と、モダンで爆発力のある表現によって、独特かつ包容力豊かな音楽スタイルを築いています」
今回の曲目は、東西文化を融合し、古今を超えるような聴覚の旅となるように、日本の聴衆向けに熟考を重ねた。
「王丹紅(ワン・タンホン)の『粤彩南風(サザン・ラディアンス)』は、広東省を中心とする嶺南地方が持つ南国特有の風情を描いた現代作品で、その風土や人々の生活、時代の様相を表現したものです。この作品は、私たちの『音楽による名刺』です」
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のソリストは、2006年パガニーニ国際コンクール第1位の寧峰(ニン・フェン)。
「その演奏は純粋で、精緻で、一音一音に情感が宿り、余計な装飾のない洗練された表現を伴います」
武満徹の「海へ II」では、作品の初演者であり、深セン響とも駐団芸術家として共演を重ねる篠﨑和子がハープを弾く。そして最後は、レスピーギの交響詩「ローマの松」。
「最終楽章には山が迫ってくるかのような、圧倒的なエネルギーがあります。深セン交響楽団の総力を挙げて、技術力と表現力を余すところなく披露できる一曲です」
今回は、コロナ禍で中止された2020年の来日公演の、5年越しの実現でもある。
「この5年間、世界は大きく姿を変えました。しかし、音楽は常に人と人との心をつなぎ、国境を越えて響き合う最も美しい言語であると、私たちは信じています。今回のプログラムは、中国・深圳からの再会のご挨拶であると同時に、日本の音楽文化への敬意、そして人類が共有するクラシック音楽という宝物への賛美を込めたものでもあります。このコンサートが、皆さまと私たちとの間に、素敵な思い出と温かな絆を育むものとなりますように」
取材・文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2025年10月号より)
中国深セン交響楽団 2025年 日本公演
2025.11/4(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
11/8(土)14:30 京都コンサートホール
問:タクティカート03-5579-6704
https://tacticart-concert.com

山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki
1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
Facebookページ https://www.facebook.com/hambleauftakt/

