【SACD】ブラームス:交響曲第2番/ジョナサン・ノット&東響

 ブラームスの音楽とは、「移行の芸術」だ。ジョナサン・ノットと東京交響楽団によるこの「交響曲第2番」を聴いていたら、自然とこの言葉が頭に浮かんだ。個性豊かな主題群が、鋭い対比関係ではなく、滔々たる川の流れにおいて変化する水面のように、「異なるけれどもひとつのもの」として体感されてくる。それは無手勝流によってではまったくなく、むしろ逆に緻密な読みの積み重ねの結果だろう。モティーフや和声の変容が細密画のように把握され、それが大きな呼吸の中に解き放たれてゆく。その方向性がオーケストラの隅々まで深く共有され、この上なく豊かな「第2番」の演奏が実現した。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年9月号より)

【information】
SACD『ブラームス:交響曲第2番/ジョナサン・ノット&東響』

ブラームス:交響曲第2番

ジョナサン・ノット(指揮)
東京交響楽団

収録:2023年7月、ミューザ川崎シンフォニーホール&サントリーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00882 ¥3850(税込)


矢澤孝樹 Takaki Yazawa

1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。