青木尚佳がこだわりの選曲で5つの「幻想」を描く

左:青木尚佳 ©井村重人/ボリス・クズネツォフ ©Nikolaj Lund/早川りさこ

 ミュンヘン・フィルのコンサートマスターとして世界にも知られる存在となった青木尚佳。昨年12月、紀尾井ホールの「紀尾井レジデント・シリーズ」におけるイザイの無伴奏ソナタ全6曲演奏会は、日本のヴァイオリン演奏の極北というべき、驚異的なパフォーマンスによる圧巻の名演だった。今年も12月の同シリーズに登場し、今回はデュオ作品5曲、しかも全曲「幻想曲」というこだわりの演目を聴かせる。

 シェーンベルク、シューベルト、シューマン、サン=サーンス、サラサーテの「幻想曲」が並ぶプログラムは壮観(全員イニシャル“S”!)。うち前4者の「幻想曲」はいずれも晩年期の作で、透徹した空気感、自由な展開が共通点となる。特に前半のシェーンベルク&シューベルトの並びは注目。いずれも知る人ぞ知る傑作かつ難曲で、硬質な現代性と抒情的なロマンの対比で、ヴァイオリンの底知れない表現力を体感できるはず。続くのは、独自の濃密な“ファンタジー”に満ちたシューマンに、旋律美とハープの響きが優雅なサン=サーンス。いずれも発見の多い名品で、ドイツで充実著しい青木の演奏で聴けるのは僥倖。やや硬派な4曲を経て、最後に理屈抜きに技巧と歌心を楽しめるサラサーテ「カルメン幻想曲」で、ヴァイオリン音楽の喜びを満喫できる構成だ。

 ピアノはドイツを中心に活躍するボリス・クズネツォフ。サン=サーンスはN響ハープ奏者の早川りさこが共演。名人たちと共に青木が構築する「幻想」の世界、存分に浸りたい。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年11月号より)

紀尾井レジデント・シリーズ III – 第2回 青木尚佳(ヴァイオリン) “Fantasy”
2024.12/6(金)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp 
https://kioihall.jp