収録作品5作のうち「3つのエッセイ」「弧のうた」はオーボエからの編曲版。大石は原曲にサクソフォンの官能性、妖しい色気を加味し、楽曲が肉感的な存在感を増していることに気づく。そこを入口とすると細川のこの楽器に対する考えがみえてくる。「明暗」は天界や聖なるものを象徴する笙の透明な響きが、サクソフォンが吐露する俗世の煩悩を浄化していく。「3つの愛のうた」では和泉式部の和歌を歌うソプラノにサクソフォンが寄り添う。作曲時期が少し前の「ヴァーティカル・タイム・スタディ」II は作風もやや異なり、激しい情念を燃え上がらせる。演奏はどれも作品への深い理解に裏打ちされている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年8月号より)
【information】
CD『細川俊夫:明暗〜サクソフォン作品集/大石将紀』
細川俊夫:「3つのエッセイ」、「明暗」、「3つの愛のうた」、「弧のうた」、「ヴァーティカル・タイム・スタディ」II
大石将紀(ソプラノ/テナー/アルト・サクソフォン)
宮田まゆみ(笙) イルゼ・エーレンス(ソプラノ) 吉野直子(ハープ) 大宅さおり(ピアノ) 葛西友子(パーカッション)
KAIROS/東京エムプラス
0022040 KAI ¥3090(税込)