サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2024
カルテット with…

弦楽四重奏+“ONE(ワン)”で知る奥深き室内楽の世界

 6月1日から約2週間にわたって室内楽の華麗な花々が咲き競うサントリーホールの「チェンバーミュージック・ガーデン」。話題の企画、コンサートが満載だが、今年注目したいのは「カルテット with…」という新しい試みだ。海外で話題の3つの実力派カルテットが来日し、それぞれの個性を発揮する魅力的なプログラムが組まれている。ただ、「with」と付けるだけあって、そこにもうひとつの「個性」が加わっているのが特徴だ。それぞれのコンサートを紹介しよう。

 まず6月7日に登場するのはフランスのヴォーチェ弦楽四重奏団である。パリ国立高等音楽院で結成され、今年20周年を迎える。6年ぶりの来日となるが、前回は磨かれた感性による新鮮な演奏を聴かせてくれた。このコンサートでは、彼らが得意とするフランスのふたりの作曲家、ドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲を中心に、現代フランスの作曲家であるイヴ・バルメール(1978〜)が書いた「風に舞う断片」が日本初演される。そしてバルメールの編曲によるドビュッシーの「抒情的散文」からの作品も日本初演されるが、これは弦楽四重奏に声を加えた作品。
 そこに「with=参加する」のがメゾソプラノの波多野睦美だ。バロックから現代まで、自在に歌の世界を旅する波多野が歌う「抒情的散文」は、ドビュッシー自身が書いたテキストに曲をつけた小さな歌曲集と言うべき作品だが、それをバルメールが弦楽四重奏と声楽のために編曲し直した。通常はピアノと声楽で演奏されるが、それがこの編成になった場合、さらに奥行きの深い絵画的な世界が広がるのではと期待される。

ヴォーチェ弦楽四重奏団 © Lyodoh Kaneko

 続いて6月10日に登場するのはダネル弦楽四重奏団。1991年にベルギーで結成され、すでに30年以上のキャリアを誇るグループだ。古典的な作品から現代曲まで幅広いレパートリーを持つのが特徴だが、特にショスタコーヴィチやヴァインベルクの録音などで注目され、来日公演も重ねてきた。2023年からはロンドンの室内楽の中心地、ウィグモアホールのレジデント・カルテットとして2年間の活動も行っており、ヨーロッパの中堅として確固とした地位を確立している。
 彼らの「with」は外山啓介をピアノに迎えたショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲 ト短調だ。この作曲家の解釈に定評のあるダネルに、ベートーヴェン、ショパン、そしてロシアものの演奏で評価の高い外山が加わった演奏は、この全5楽章から構成される独特な静謐さを持つ作品の新たな魅力を教えてくれるに違いない。その他、プロコフィエフとヴァインベルクの弦楽四重奏曲によるプログラムは、重量感ある手応えを残してくれるだろう。

ダネル弦楽四重奏団 ©Marco Borggreve

 3つ目のコンサートは6月14日。エルサレム弦楽四重奏団が登場する。2021年のチェンバーミュージック・ガーデンで、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏である「ベートーヴェン・サイクル」に出演し、その実力を余すところなく表現した。今回はメンデルスゾーン、ベン゠ハイム、ドヴォルザークというプログラミング。イスラエルのベン゠ハイム(1897〜1984)の作品は日本ではあまり取り上げられないが、ドイツ生まれで、一時期ブルーノ・ワルターとハンス・クナッパーツブッシュのアシスタントとして活動していたこともある作曲家である。
 そして彼らの「with」は小菅優。ピアニストとして斬新な視点からリサイタルを展開するなど、常に注目を集める小菅がドヴォルザークのピアノ五重奏曲第2番で共演する。室内楽の名作のひとつだが、共演するカルテットとピアニストによって、その音楽の色彩感も熱量も大きく変化するのがこの作品の魅力。エルサレム&小菅の組み合わせはまたとない贈り物だ。

エルサレム弦楽四重奏団 ©Felix Broede

 3つのコンサートともそれぞれの弦楽四重奏団の魅力に加え、共演ソリストの個性も加わった貴重なコンサートとなる。ぜひ、サントリーホール ブルーローズに足を運ぼう。
文:片桐卓也


サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン
2024.6/1(土)~6/16(日) サントリーホール ブルーローズ(小)

カルテット with…

I. ヴォーチェ弦楽四重奏団

6/7(金)19:00
●出演
弦楽四重奏:ヴォーチェ弦楽四重奏団
 ヴァイオリン:サラ・ダイヤン/セシル・ルーバン
 ヴィオラ:ギヨーム・ベケール
 チェロ:アルチュール・ユエル
メゾソプラノ:波多野睦美
●曲目
ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 op.10
バルメール:「風に舞う断片」(日本初演)
ドビュッシー(バルメール編):「抒情的散文」より(ソプラノと弦楽四重奏用編曲、日本初演)
ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調

II. ダネル弦楽四重奏団

6/10(月)19:00
●出演
弦楽四重奏:ダネル弦楽四重奏団
 ヴァイオリン:マルク・ダネル/ジル・ミレ
 ヴィオラ:ヴラッド・ボグダナス
 チェロ:ヨヴァン・マルコヴィッチ
ピアノ:外山啓介
●曲目
プロコフィエフ:弦楽四重奏曲第2番 ヘ長調 op.92
ヴァインベルク:弦楽四重奏曲第6番 ホ短調 op.35
ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲 ト短調 op.57

III. エルサレム弦楽四重奏団

6/14(金)19:00
●出演
弦楽四重奏:エルサレム弦楽四重奏団
 ヴァイオリン:アレクサンダー・パヴロフスキー/セルゲイ・ブレスラー 
 ヴィオラ:オリ・カム
 チェロ:キリル・ズロトニコフ
ピアノ:小菅優
●曲目
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番 変ホ長調 op.12
ベン゠ハイム:弦楽四重奏曲第1番 op.21
ドヴォルジャーク:ピアノ五重奏曲第2番 イ長調 op.81

問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
suntoryhall.pia.jp