脳溢血に倒れ2年半にわたる闘病生活の後、2004年にステージに復帰した舘野泉。左手のみでの表現力はますます深みをまし、その驚異的な演奏に世界中から賞賛が寄せられているのは周知の通り。舘野は東京芸大を卒業し、本格的に演奏活動を始めてから今年で50年目を迎える。これまでシベリウスをはじめとする北欧のピアノ作品の紹介、多くの現代作品の初演などで知られてきた舘野だが、現在は左手のために書かれた作品の発掘や委嘱初演など、新たな領域を意欲的に開拓している。今秋から来年の2月にかけて演奏生活50周年を記念するリサイタルを全国4ホールで開催。それに先立って記者会見が8月2日に行われた。当日出席したのは舘野のほかに、吉松隆(作曲)、末吉保雄(同)、記念公演に出演する北村源三(トランペット)、浜中浩一(クラリネット)、CDで共演する舘野の唯一の弟子である平原あゆみ(ピアノ)。以下はその記者会見から。
「今年の春も45回演奏しました。病気する前より演奏の回数は減ってはいるが、色々な国で演奏できることを有難く思っている。また作曲家が左手のための作品を書いてくれることも嬉しい」
今回のリサイタルでは間宮芳生の「風のしるし」、末吉保雄「アイヌの断章」、coba「記憶樹」、吉松隆「優しき玩具たち」というプログラムが組まれた。末吉と吉松の新作はピアノ・ソロではなく、左手のピアノと管楽器や打楽器、弦による室内楽だ。こうした編成は世界的にも珍しい。芸大時代同期だった北村源三や浜中浩一がアンサンブルに参加するのも話題だ。
「末吉さんの曲は、北海道出身の私の母がアイヌの人たちの文化に大きな関心を寄せていたことがきっかけで書かれることになった。譜面ができあがるのは9月とのことで、どんなスタイルの曲になるのかスリルがあり、楽しみにしている。吉松さんの曲は、題名からも可愛らしく、優しく、演奏する喜びを与えてくれると思う。息子(ヤンネ舘野)と共演できるのも嬉しい。cobaさんの曲は、フィンランドやフランスでも弾いて好評だった」
今後については、
「来年は休みの年にして、2012年から2年くらいをかけて、左手のピアノ音楽の7回シリーズを考えている。ソロ、室内楽、コンチェルトをとりあげたい」と展望を語った。
50周年に合わせCDも発売される。エイベックス・クラシックスからは新録音が3点予定されており、第1弾の『記憶樹』が10月20日にリリース予定。またEMIミュージック・ジャパンからも、舘野が東芝EMIで録音したすべての音源をCD化し『舘野泉EMIレコーディングス・コンプリートBOX』(26枚組)と『舘野泉EMIレコーディングス セルフ・セレクション』を共にリリースする。いずれも発売日は10月20日。